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狡猾なる勇者  作者: H2O
終章
60/68

4 虫


俺たちの部隊は整列して訓練が始まるのを待っていた。


「なぁジョー、首に虫がついてるぞ。」


俺の斜め前に立つジンは、彼の前に並んだ隊員の首を指差す。


「本当か?ジン、とってくれ。」


ジンはジョーの首元についた小さな蜘蛛のような虫を摘んだ。しかしその脚は皮膚に食い込んでいるようで、なかなか剥がせない。


「噛まれてるぞ。痛くねぇか?」


「兵士がこれぐらいの痛みで音をあげるかよ。」


「じゃあかまわねぇな。」


ジンは皮膚がむけるのも構わず虫を思い切り引っ張った。


「いってぇ!」


たまらず叫ぶジョーにジンは「これぐらいじゃ音をあげないんじゃなかったのかよ。」とニヤニヤ笑った。

2人は笑っているが、俺は皮膚に食い込むような虫がなんだか不気味で恐ろしかった。

俺はジンに声をかけた。


「なぁジン、それ見たことねぇ虫だな。」


「アリ、お前も見たことねぇのか?こんな虫だぜ。」


ジンは俺の顔にぐいと虫を近づけた。

その虫は虫特有の光沢感がなく、錆びついた金属のような質感であった。

腹側の脚が動くのが気持ちが悪くて、俺は思わずはたき落とした。


「うお、何すんだよアリ!」


「悪い、気持ち悪かったから。」


虫は地面に落ちる。

ぱきり、とかわいた金属音がして火花が散る。

それは虫の死に様よりも、機械が壊れる瞬間にみえた。


「なんだこれ?」


それを見たジョーは目を見開いて「あの怪談は本当だったんだ…!」と呟く。


「怪談ってまさか敵軍に捕まると改造されるってやつか?」


ニヤニヤして本気にしてないジンと俺は対照的にジョーの顔はどんどん青くなる。


「おれ、この前酒場で赤い巻き毛の女に一杯飲まないかって声をかけたんだ。

女は剣の勝負にかったら付き合ってやるって言ったんだ。気が進まなかったけど、おれは女と一緒に表で戦った。

ところが女の仲間が隠れていて、そいつに後ろから攻撃されたんだ。

そいつらは実は敵国人で、おれが兵士だとわかると敵軍のもとへ連れて行くというから、おれは慌てて逃げ出したんだ。」



「女に釣られて騙されたのかよ、情けねぇな。」

とジン。

俺が「そんな話と改造人間がどうつながるんだよ?」と聞けばジョーは「この変な虫はそんときに敵国人の女につけられたんじゃないか。」という。


「おいよく見ろよ、こんな小さな虫だぜ?こんなのをつけただけじゃ改造とはいえねぇよ。」



「お前たち、巣をはれない蜘蛛を見たことはないか?気味悪い色に変色したカタツムリは?

あれは寄生虫に寄生されて、脳の機能がのっとられてるんだ。」



俺とジンは顔を見合わせた。


「ジョー、お前はこの小さな虫がお前の脳みそを乗っ取ろうとしてたって言いたいのか?」


「もしそれができるなら敵軍にとって1番効率がいいじゃないか。

相手の兵力を奪って自軍の兵として戦わせることができるんだぞ。

その上、誰が敵に操られているのか本人ですら気づけない。

おれたちの軍を内部から破壊することだってできる。」



「あるわけねぇだろ、そんなの。」と一蹴するが、ジョーは「よく考えろよアリ。」と俺の肩を掴む。


「戦争なんだぞ。勝つためにはなんだってする。

敵軍はどうやって効率よくおれたちを殺せるか四六時中研究してるんだ。」


ジンは俺からジョーをべりっと引き剥がす。


「ジョー、迷信深いのもいい加減にしろよ。敵だって血の通った人間なんだぜ。」


「たしかにおれは迷信深い。だがおれの首に小さな機械の虫が埋め込まれてたのは事実だ。」


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