3 海獣
「ルーカス、こればっかりは仕方ねぇよ。」
電話口のレニーが気落ちした俺をなだめる。
「ルーカスが敵国の書籍楽しみにしてたのも知ってるけどさぁ。事故はどうしようもねぇよ。」
敵国とのパーティーに潜入した際に俺は敵国の進んだ学問を学ぶため書籍を取り寄せた。
しかしその書籍を乗せた貨物船が事故にあってしまったというのだ。
「なぁレニー、どんな事故だったか聞いてるか?」
「船を操縦してた親父が言ってたぜ。
事故が起こったのはうちの島の近くだったんだと。ガツンと大きな音がして船が大きく揺れたんだ。
調べてみりゃ貨物船の底に大きな穴があいてたんだってよ。
それで貨物船は沈んじまった。
船員たちはうちの島まで泳いできたからよぉ、屋敷に入れたんだけど問題ねぇか?」
「レニーお前なぁ…。屋敷に客を招いたことは早く言えよ。」
レニーは悪びれずに言うが、主人に許可なく屋敷に人を招き入れるのは使用人としてはいかがなものか。
緊急時なのだから反対はしないけれども。
「しかし妙な事故だな。うちの島の近くの海は船の底に穴を開けるような岩場じゃないだろ。」
「ツノがある海のいきもんがぶつかってきたんじゃねぇの?
イッカクだっけ、そんなのいたよな。」
「イッカクは寒い海にしか生息してないんだよ。
うちの島の近くにいるはずがない。」
「そうなのか?でも、親父は大きな棒みてぇなので突き刺したような穴があいてたっていってたぞ。
海にまだ発見されてないバケモンでもいるんじゃねぇかって親父たちは言ってる。」
レニーから聞く限り、貨物船の船員たちは事故は海の生物によるものと信じきっているらしい。
化け物とは、船乗りの迷信深さが見せた幻覚なのか、それとも。
「人工の化け物かも知れないね。」
声がしたと思うと、ノアが猫のようにするりとすぐ隣に現れた。
「なんだよ、人工の化け物って。」
「貨物船が来られなければ島の物流が途絶えてしまう。
敵の補給を止めるのは戦術として有効だ。
事故は島に向かう貨物船をねらって人為的に起こされたんじゃないか。」
「ノアは敵国があの島への攻撃として事故を起こしたと考えてるのか?」
「そういう可能性もあるんじゃない?
マーガレットは敵国の軍事施設にいたでしょ。
第一王子の婚約者で元反乱者の彼女なら敵国に我が国の機密情報を流せる。
我が国と敵国の間の孤島が攻撃しやすい状況にあると知られたのかも。」
敵国がいよいよ我が国に攻め入ろうとしているのだろうか。
マーガレットの我が国への復讐とは、敵国と我が国の戦争を引き起こすことなのか。
「けど、海獣を調教して操るのは無理あるだろ。」
「人工の海獣だよ。たとえば、大きな潜水艦とかね。」
先日迷い込んだ敵国の広大な地下宮殿。
あの場所には、機械仕掛けの海獣が獲物を海に沈める時を待ちながら息を潜めているのかもしれない。




