2 怪談
「兵士は必死で逃げた。
巻き毛の女が追いかけてくる。
やっと巻いたかと思ったが、前からもう1人の女が来ていたんだ。
そして兵士は囚われ、敵軍に攫われた。」
「それでそいつはどうなったんだ?」
「目が覚めたとき、兵士は絶望する。
身体がまるで違う姿になっていたんだ。
兵士は敵軍に改造されてしまったのだ!」
ジンは大袈裟に抑揚をつける。
俺が「ほんとかよ。」というと彼はぐわっと目を見開く。
「お前も改造人間にしてやろうかぁ!」
「やめろって!」
俺は覆い被さってくるジンにもみくちゃにされる。
俺もジンもげらげら笑う。
一緒に酒を飲むならジンほど楽しい奴はいないと俺は思う。
「さぁこんどはお前の番だぞ、アリ!とっておきの怪談を聞かしてくれ!」
ジンが俺の肩を抱いてはやしたてる。
俺たちは怪談を酒の肴にしていた。
俺は同じ部隊のやつから聞いた話をすることにした。
「最近、夜な夜な幽霊が目撃されているらしい。」
「おぉ!どんな幽霊なんだ?」
「敵国の子供の霊だ。」
ジンは「なんで敵国の子供だってわかるんだ?」
と首を傾げる。
「話の腰を折るなよ。
幽霊は赤の聖服を着ているんだ。」
「それなら敵国の幽霊だな。我が国の幽霊なら聖服は月の女神様にちなんだ黄色だもんな。」
「その敵国人の幽霊は、何やら不気味な歌を歌いながら夜の街を徘徊しているんだ。」
「歌いながら徘徊してるだけじゃ怖くないだろ。酔っぱらいの親父だって歌いながらうろついてるぞ。」
「聖服を着てるんだから敵国の教団の者だろ。だから歌になにか魔力がありそうで怖いんじゃないか。」
ジンは「わかったぞ!」と手を叩く。
「きっとその幽霊の歌は改造人間を操る力があるんだ。幽霊は改造された我が国の兵士を歌で思いのままに動かしている。」
「ヘビ使いの笛みたいにか?」
「まさしくそれだ!改造人間は幽霊の歌で踊らされるんだ。」
「どんな風に?」
「こうだ!」
ジンはヘビのように身体をくねらせた。
あまりに馬鹿馬鹿しくて俺は吹き出してしまった。
酒の力と楽しい気持ちのせいでどんなくだらないことでも面白く感じてしまう。
「なんだよそれ!」
「ヘビの舞だ!」
2人とも息ができなくなるほど笑った。
笑い声が騒がしくて酒場の店主に「うるせぇぞガキども!」と叱られた。
それすら可笑しくて、俺たちはまた吹き出した。
「アリといると笑いすぎて腹がよじれそうだぜ。」
ジンは笑いすぎて目に涙を浮かべている。
「そりゃこっちのセリフだ。俺の腹筋が割れたのはお前のおかげだ。」
ジンはまた笑ってテーブルにつっぷした。
こいつも相当酔ってるな。
そうして笑い疲れたのか大きくため息をついた。
「あーぁ、ずっとこのままだったらいいのにな。」
小さな声に気づかないふりはできなかった。
「戦争が終わればまたこうして酒が飲めるさ。」
ジンは顔を伏せたまま、俺の手を掴んだ。
「なぁアリ。頼むから俺を置いていくなよ。」
いつもふざけてばかりいるくせに、本当は誰よりも寂しがりなことは長い付き合いでよく知っている。
だから俺はこいつを放っておけないのだ。
「死んでもお前についていってやるから安心しろ。」
「死んだらなんていうなよ。」
「もしも幽霊になっちまったらお前の枕元でヘビの舞を踊ってやるよ。」
ジンはまた吹き出した。
俺も大声で笑った。
俺たちは酒場から追い出されるほど大きな声で笑い続けた。
2人でさんざん笑った敵軍の怪談が、実は恐ろしい事件と知るのは後になってからのことだった。




