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狡猾なる勇者  作者: H2O
第六章
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8 仮面の裏

「待っていた。」


焼けたようにしゃがれた声が暗い地下宮殿に響く。

怪人が仮面の下で笑った。

真っ黒い瞳が憎しみを込めて俺を見ている。


その瞳の色で、会いに来た人はここにいないのだと気づいた。

エドワードの瞳は青だった。


「エドワードはもういないんだな。」


「あなたがエドワードを殺したんだ!」


怪人の割れるような叫び声が反響する。


「そうだ。俺が殺した。」


エドワードではない、と気づいたならば目の前の相手がよく見える。

怪人は、エドワードの好きだった歌を知っていて、エドワードの銃の撃ち方を真似できる人物。

怪人は俺がエドワードを殺した犯人だと知っている。つまり怪人はあの列車で俺を見ている。

そして彼を殺した俺を憎むほどに、エドワードを愛している人物。


「列車で会ったときには挨拶もしなくて悪かった。」


怪人は返事をせずに銃口を俺に向ける。


「久しぶり、マーガレット姉さん。」


「ルーカス…?」



エドワードの婚約者は、瞳に驚愕を浮かべた。

彼女の手から滑り落ちた銃は大理石の床にぶつかり、高く音がこだました。



「あなた、ほんとにルーカスなの?」


「あぁ、10年ぶりだね。」


10年前、俺はマーガレットの肩にも届かないぐらいの背だったのだ。列車で会ったときに気づかなくても無理はない。


マーガレットは仮面からのぞく黒い瞳を潤ませた。


「どうして私たちの革命を止めたの?

あなただって10年間も幽閉されてた。

自分の国が憎くないの?」



「マーガレット姉さんは国を恨んでるのか?」


マーガレットは「当たり前じゃない!」と高い声をあげ、咳き込んだ。



「なんの罪もないエドワードを、10年も監獄に閉じ込めたのよ。許せるはずがない。

エドワードを王位につかせるために私はあの列車に乗ったの。王座にふさわしいのはエドワードだから。」


「エドワードはそんなこと望んでなかった。」


「わかってる、エドワードなら平和な国に革命を起こすことなんか望まないって。

革命を起こそうとしたのは、私のためだったの。

私の愛する人を犠牲にした国への復讐だった。 

平和のために誰かを犠牲にする国を変えたかった。」



焼けたのどで必死に話すマーガレットの言葉が胸を打つ。

俺だって、エドワードに犠牲になって欲しくなんかなかった。

俺だって、エドワードに生きててほしかった。

他ならぬエドワードの頼みだとしても、殺したくなんかなかった。


マーガレットは涙を溢しながら、俺に問う。

 

「なんで、なんでエドワードを殺したの!」


まっすぐな黒い瞳を前に、言い訳なんかできるはずがなかった。


「俺が生き残るために必要だった。」



マーガレットは膝をつき、啜り泣いた。

俺は彼女になんと言っていいのかわからなかった。




「ルーカス、帰ろう。」


差し出されたノアの手を取った。

ノアに導かれるまま、俺はボートに乗った。

すぐにエマがボートを漕ぎ出した。


マーガレットにかける別れの言葉が見つからなかった。

彼女は俺たちを追うこともなく、ただ泣いていた。



「急ぐぞ!」


エマはそう言ってスピードを出してボートを漕いだ。

大理石の柱を抜けて、地上へ続く階段へと辿り着く。


「走れ!」


エマに急かされ、俺たちは階段を駆け上がり地下宮殿を後にした。

地上へと上がり、大理石の広間を駆け抜け建物の外に出たところでようやっと息をついた。


「なんだってそんなに急かしたんだよ、エマ。」


息を切らしながら問いかけると、エマは「ルーカス、あれがなんのための場所か気づいてなかったのか?」と眉を吊り上げる。


「仕方ないよ、人間は見たいものしか見ないから。」


ノアの言葉にエマは「呆れたぞ、坊ちゃん。」とため息をついた。


「あれだけの広さがあってただの貯水池なわけない。あの広大な空間は人目につかず、地下であるが故に地上からの攻撃からも守られている。

潜水艦や軍艦を収容するのには最適だ。」



「あの地下宮殿は敵国の軍事施設なのか!」


軍事施設であればあの場には多くの敵兵がいた可能性だってある。あの場所で敵兵に見つかればまず逃げられない。だからエマは急かしたのだ。


エマは乱れた髪をかきあながら「重要なのはあそこが軍事施設だってことじゃないだろう。」と言う。


「マーガレットは敵国の軍事施設に潜んでいたんだぞ。確実に敵軍と繋がっている。

あの女の復讐はこれから始まるんだ。」


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