7 地下宮殿の怪人
惨劇の後の会場は焼けこげた匂いに包まれ不気味さを漂わせる。
美しかった白い大理石は黒い煤とガラスの破片が散らばっている。
「ルーカス、銃は使えるんだろうな。」
前を歩くエマが念を推してくる。
「俺だって銃の使い方ぐらい心得てる。」
「どうだか。戦えるのは私だけなんだから無茶しないでくれよ。」
「わかってるって。」
「まったく、なんでノアまで連れてるんだか。」とため息混じりに言うエマに、ノアが「僕だってそう思う。」と生意気を言った。
2人の声に混ざって、もうひとつ声が聞こえた。
「なぁ、ちょっと耳を澄ませてくれ。」
響いてくるその声は、のどが焼けたかのように掠れている。
歌をうたっているんだと気づく。
懐かしい歌だ。
「エドワードの好きだった歌だ。」
奥から響いてくるその歌はこちらを誘っているようだった。
俺たちは声を頼りに奥へと進んでいく。
「行き止まりだぞ。」
エマは背丈を超えるほど大きな鏡の前で止まる。
しかし歌声はその奥から響いてくる。
ノアが鏡の淵にふれた。
「ここ、すこし隙間がある。」
鏡は少しだけ奥に向かって傾いていた。
ノアがゆっくりと鏡を押すと、鏡は扉のように開き下へと続く階段が現れた。
歌声は、地下へと誘っている。
石畳の細い階段を下っていくと、広大な地下空間に辿り着いた。
白い大理石の柱が立ち並び、湖の如く水で満たされている。
小さなガス燈の明かりに照らされ、金でつくられた幾何学模様がちらちらと輝く。
そこは、地下に広がる水の宮殿であった。
階段の下段、一隻のボートがあった。
これに乗れ、追ってこい、というように。
俺は誘われるがままにボートに乗る。
「おい、どう考えても罠だろう。」
エマが俺の肩を掴む。
「わかってる。だけどどうしても確かめたいんだ。兄さんが生きているのか。」
エマはふんと鼻を鳴らして俺の肩を離し、ボートに乗った。
「ノア、お前もこいって。」
俺がノアの手を引くと、ノアは「仕方ないな。」と言いながらも口の端を吊り上げた。
ボートを漕ぎ、地下宮殿の中を進んでいく。
水で満たされた宮殿に、歌声が響いている。
やがてドーム型の天井が見えてきた。
そこは宮殿の中央部で、左右に水路が分かれておりそれぞれ奥に部屋があるようだった。
水路の中心に円形の陸地がある。
真っ黒な人影が立っているのが見えた。
地下宮殿の中心で、仮面の怪人は俺を待っていた。




