3 パーティーの惨劇
大理石の輝くドーム。
左右対称の均衡が取れた外観。
パーティー会場である異国の建築物は目を見張る美しさだ。
「ルーカス、あたしが入って大丈夫なのかい?」
ナターシャが不安げに俺に聞く。
踵の高い靴が歩きにくいのと落ち着かないのとで俺にしがみつくナターシャの姿が、いつもの勝気な彼女とあまりに違うから可笑しくて気が抜けた。
「大丈夫だって。」と笑いかけたら「笑うんじゃないよ。」とつねられた。
「堂々としてりゃ疑われないよ。」
ナターシャをエスコートしながら、入り口へと進む。
門番に会釈して貿易会社の者だと伝えれば問題なく会場へ入ることができた。
大広間は床も柱も白い大理石で作られており、幾何学模様の装飾が美しい。
丸い天井からは煌びやかでエキゾチックなシャンデリアが釣り下がっていた。
「きれいだねぇ。」
感嘆の声をもらすナターシャに俺も頷く。
何もかもが目新しくて、新鮮だ。
たくさんの敵国の商人と会話し気づいたことは敵国は我が国よりも進んだ学問を持っているということだ。
医学、数学、哲学、さらには科学の発展は目覚ましいものであった。
本気で戦争になるなら、知識の差は恐ろしいものである。
学問自体はもちろん悪ではないのだ。
しかし使いようによっては敵に甚大な被害をもたらす兵器となり得る。
俺は商人と契約を交わし、あらゆる分野の書籍を取り寄せることにした。
敵国について知れば知るほど、俺が勝てる相手ではないと痛感する。
強くはない俺にできることは限られてる。
俺と俺が守りたい人が生き残ることだけを考えよう。
生きることが正義だと言ったノアを信仰すると決めたのだから。
商人との交渉を終えた俺は、誰かから見られているのを感じた。
辺りを見回す俺をナターシャが「どうしたんだい?」と不思議がる。
「なんか視線を感じたんだよ。」
「間抜けだね、坊ちゃん気づかなかったのかい?」
ナターシャは俺に目線で示した。
斜め後方、大理石の白い柱から黒い人影がこちらをのぞいている。
そいつはくるりと踵を返して走り出す。
追いかければならない、と思った。
「ナターシャ、長い時間付き合わせたから疲れただろう。外の空気を吸ってきたほうがいい。」
俺はナターシャを危険に巻き込みたくなかったのだ。
ナターシャはばつが悪そうにしながらも、素直に外へ向かった。
ナターシャが出たのを確認してから、俺は逃げた仮面の人物を探した。
会場の中で異質なその人物はすぐに見つかった。
そちらも俺を探していたんだろう、数メートル離れた場所にたったそいつは俺をまっすぐ見ていた。
その人物は夏であるのにもかかわらず長いコートを着て手袋をしていた。
何より俺が驚いたのはその顔だ。
その人物は、仮面をつけている。
「エドワード…?」
そいつはコートのポケットに手を入れる。
まずいと思った時には遅かった。
高い天井へと伸ばされたそいつの手には銃があった。
銃声が響く。
放たれた銃弾は、シャンデリアの金具を破壊した。
激しい音とともにシャンデリアが落下した。




