3 調査
「昨日の夜、何をしていたか教えてくれ。」
屋敷にいる全員を広間に集め、私は問うた。
「アリバイ調査ってやつね!我らは容疑者か!」
ユーシェンがはしゃいだ声を上げるのを、オリヴィアが目で叱る。
ルーカスはこちらの思惑を見透かすように笑う。
「よそから来た私たちを疑うのも無理はありません。お答えしましょう。」
「昨夜、私たちは辺境伯に夕食をご馳走になりました。夕食を終えたのは8時でしたね。
夕食後、私とユーシェンはエイメン殿と共にカードゲームをしました。
そうですね、エイメン殿。」
同意を求められたエイメンは「ポーカーだった。」と答える。
「白熱したから3時間ぐらいはやっていたね!」とユーシェン。
「3時間、あなたたちは誰一人席を立たなかったの?」
オリヴィアの質問にエイメンは「ルーカス殿が席を立っている。ルーカス殿宛に電話だとメイドが知らせに来た。」と言う。
「9時ごろだったね!我がルーカスをボロ負けさせるとこだったから覚えてるよ!」
「ルーカス殿の電話は15分ほどだったか。その間、本当に電話していたのか?」
疑うエイメンに、ルーカスは「船に残してきた仲間と連絡をとっていたのです。仲間に確認していただいてもかまいませんよ。」と涼しい顔で笑う。
「やけに長い電話だったな。」と言うエイメンを制し、私は「ルーカス殿に電話が来たことを知らせにいったときにはナターシャは生きていたんだな。」と確認する。
「電話がくるまでは、私もナターシャの仕事を手伝っていたわ。ルーカスを呼びに行った後、あの子は戻ってこなかった。」とオリヴィア。
「メイドに最後にあったのは貴殿なのだな、ルーカス殿?」
睨むエイメンに、「でもさぁ、それより大事なことがあるよね?」とユーシェン。
「エイメン殿は3時間ずっとゲームしてたわけじゃなく、途中で抜けたでしょ。」
「確かに僕は10時に先に休むと言った。」
「なら、アリバイが確かじゃないのはエイメン殿のほうだね。」
ニィと笑うユーシェンに、エイメンは「僕を疑うのか!」と声を荒げる。
「落ち着け、エイメン。」
「娘がいつも寝る時間も10時だな。」
私はネリーに確認する。
「お嬢様は10時にお部屋に行かれました。そのすぐ後、私はお嬢様の部屋にお飲み物をお持ちいたしました。」
「私も同じころに部屋に行った。」
こうなると、娘が最後に見られたのは10時ごろ、その後1時間ルーカスとユーシェンはカードゲームをしており、私とエイメンはそれぞれの部屋にいたことになる。
朝までの間にジャネットとナターシャが姿を消したと考えられる。
「オリヴィアはどうしていたんだ?」と尋ねると、彼女は「私はナターシャから引き継いだ仕事を終えたあと、外で稽古をしていたわ。」と答える。
「アイリスも一緒に仕事してたわよ。その後あんたは何してたの?」
オリヴィアに問われたアイリスが答える。
「おれは海岸に停めた小型飛行機を移動させてた。昨日は風が強かったから、海岸に置いたままにしておくと飛行機が流されそうだったんだ。」
「それで朝は寝坊したのね。」
「うるさい。」
小競り合いをはじめたオリヴィアとアイリスに、エイメンは「ならお前たち二人にはアリバイがないのだな。」と冷たい顔を向けた。
「10時以降アリバイがあるのは我とルーカスだけね!」
ユーシェンに笑われ、エイメンは「それは11時までだろう。」とくってかかる。
「11時から翌朝までのアリバイがある者は誰もいないぞ。」
つまり全員にナターシャ殺害とジャネットの誘拐が可能だと言える。
結局、消えたジャネットの行方も、ナターシャ殺害の犯人も突き止めることはできないままその日は終わった。
翌朝、私は何かが焼けこげる匂いで目が覚めた。
「何の匂いだ?」
部屋の窓を開けるといっそう匂いが強くなる。
屋敷の畑の近く、焼却炉が黒い煙を吐いていた。
嫌な予感がする。
外に出ると、「おはようございます、辺境伯。」と後ろからルーカスが追いかけてきた。
「きみも早いな、ルーカス殿。」
「なにやら異臭がしたものですから。
あの焼却炉からですね。」
ルーカスと共に私は焼却炉へと向かった。
近づくと異臭はより一層強くなった。
「これは…?」
焼却炉の手前、地面に何か光るものが落ちている。
私はそれを拾い上げた。
翡翠の髪飾りであった。
「これはユーシェン殿がつけていたものではないか?」
髪飾りを見たルーカスは顔を青くする。
恐る恐る焼却炉の蓋をあけた。
燃え盛る炎の中、真っ黒になった体があった。




