7 なんでもない朝
「レニー、朝市に行くのかい?」
買い出しに行こうとしているとユーシェンに声をかけられた。
「悪い、起こしたか?」
騎馬の王の息子でありながら亡命中のユーシェンは、いつのまにか船に住み着いていて共に旅をしている。
ルーカスもユーシェンに恩があるから、ユーシェンを匿うのを断れないんだろう。
計算高いユーシェンのことだからそれを狙ってたとも思うが。
「俺ぁ食材を買いに行くとこだったんだ。」
「我が送っていくよ。」
「いいのか?」
「我も用事があるからね。ついでさ。」
俺はユーシェンの言葉に甘えて、彼の鉄の馬に乗せてもらうことにした。
「送ってくれて助かったよ。」
ユーシェンは「へへへっ!」と声をあげて笑う。
「お礼は昼飯をパオズにしてくれれば結構!」
「あれかぁ。今日こそうまくつくってやるからな。」
ユーシェンの好物は小麦粉の生地で肉の入った餡を包んで蒸す料理だ。
俺には馴染みのない料理だったから初めてつくったときはうまく作れなくてユーシェンに大いに笑われたのだ。
ユーシェンはべちょべちょになってしまったパオズを笑いながらも全部食べてくれたが、俺は今度こそ成功させてやると闘志を燃やしていた。
ユーシェンは俺を朝市の会場まで送ると、用事を済ませてくるといって別れた。
いつもどおりの非常食用のビスケットと燻製肉に加え、小麦粉とひき肉を買い終えると結構な量になった。
市場の入り口で待っていると、汗だくになったユーシェンが鉄の馬でかけてもどってきた。
「おかえり、お前何しにいってたんだ?」
「仕事だよ!」
ユーシェンはこれ以上なにも話さないと暗に伝えていた。
俺は詳しく聞き出すのは諦めて、大人しく彼の鉄の馬の背にのった。
「おい、こっちの道だと船に帰るには遠回りなんじゃねぇの?」
ユーシェンは行きとは違い、線路から少し離れた道に馬を走らせていた。
ユーシェンは、「今線路に近づくのは危ないからね。」とだけ答えた。
線路側から汽車の通る音がしたかと思うと、何やら遠く離れた線路の方が騒がしくなる。
不審に思っていると、突然大きな爆発音が空に響いた。
「なんだありゃぁ!」
驚いてそちらを見やると、谷から黒煙が上がっていた。
あの谷には橋がかかっていて、汽車はそこを通過するはずだ。
汽車はどうなったんだろうか。
「おぉー、派手に燃えたねぇ。」
ユーシェンは感心したように言う。
こちらに振り向いて、猫によく似た笑顔を見せる。
「ね、我の言ったとおりあっちは危なかっただろう。」
ユーシェンはきっと何か知っている。
でも俺は聞かないことにした。
彼が俺を関わらせないと決めたなら、俺も聞かない。
「早く帰ろうぜ。朝食をつくってやるから。」
今日はルーカスとノアが船に戻ってくる日だ。
早朝に船を出て2人を迎えに行ったアリスとエマも腹を空かせて帰ってくるだろう。
朝食はいつもより多めに用意しなくては。
「昼飯にはお前の好物を完璧に作ってやるよ。」
俺がそういうと、ユーシェンは「そいつは楽しみだ!」と嬉しそうな声をあげて馬を走らせた。




