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狡猾なる勇者  作者: H2O
第四章
38/68

6 自由


「なぁルーカス。お前はこの10年なにしてたんだ?」


エドワードは顔を見せないまま俺に話しかけてくる。


「何してたって、俺が幽閉されてたの知ってるだろ?」


船に乗るまで、俺はずっと屋敷から出ることを許されてなかった。あの屋敷だけが俺の世界。

自由なんかなかった。


エドワードは軽い態度を崩さない。


「ちゃんと寝れてたか?飯は残さずたべたか?」


いかにもおせっかいな保護者な質問に、俺はぶっきらぼうに「寝れてたし、食べてた。」と答えた。


「そう。なら兄さんは安心したよ。」


顔が見えなくとも、エドワードが微笑んだのがわかった。



俺は確かに、自由のない身ではあった。 

しかし屋敷の中だったのだ。暖かいベッドと食事がある、さらには世話してくれる使用人もいた。

不自由だが、贅沢だったのだ。

監獄にいたエドワードの10年を思うと、胸が痛んだ。


こちらの心中を裏切り、エドワードは「ルーカス、聞いてくれたまえ。」とはしゃいだ声を出す。


「兄さんのこの10年はとても充実してたんだよ。自由を手に入れたからね。」


「監獄にいたんだろ?」


思わず聞き返した俺にエドワードは「その通りさ!」と嬉しげに答える。


「ルーカス、お前は監獄がどんなに面白いところか知らないだろう!


看守のやつは僕のことを王族として敬ったんだよ。誰にも僕の正体を知られちゃいけないのに間抜けだろ?

だから僕は監獄のなかで特別待遇だったのさ。ベッドも食事もあるし、身の回りを世話してくれる女の子もいた。


そんなんだからほかの囚人たちは僕が気に食わなかったらしくてね。人生ではじめて喧嘩を売られたよ。

どんな卑怯な手もありな喧嘩はおもしろいぞ。

囚人だというからどんな強いやつなのかと思ったんだけど、あいつら力ばっかり強くて頭は悪いんだ。

賢い僕は監獄で負けなしだった!

監獄では喧嘩に負けた奴は相手のいうことをなんでも聞かなきゃならん。

僕が喧嘩に勝つとどんどん仲間が増えてったんだ。

  

僕はしょっちゅう外出許可が出た囚人に喧嘩売って、勝ったら僕の仮面をつけさせて影武者になってもらった。

仮面を外した素顔は誰も知らなかったし、看守のじぃさんは小汚い囚人の顔なんかどれも同じに見えるらしくて、僕が外出したことは全然ばれなかった。

点呼の時間に間に合えば何のお咎めもなしさ。


外出すると僕は村に遊びにいった。

酒場で知らないおじさんたちと昼から仲良く酒飲んで、女の子とダンスして。

何者でもない、ただの僕として過ごしたんだ。」



エドワードが話すことは、どこまでが本当かわからない。

そんな俺を見透かして、「ルーカス、お前兄さんの話を信じてないなぁ?」と茶化す。


「ちゃんと信じてるよ。」


俺はエドワードの話を信じたかった。




「ルーカス、自由とは何か知っているか?」


エドワードの芯を持った声が響く。


「自由とは、己で勝ち取るものなんだよ。

身体が縛り付けられようとも、心の自由は自分以外奪うことはできない。

己に打ち勝つことが出来るなら、心の自由は勝ち取ることが出来るんだよ。

どんな状況にあってもね。」



「知らなかった。これから覚えておくことにする。誰の教えだ?」



俺が聞くと、エドワードは大声で高笑いした。


「他でもない僕の言葉さ!しかと覚えておくがいい!」



エドワードの誇り高いところは少しも変わっていなかった。



「自由を勝ち得た僕はこの人生に満足したのさ。


だから、お前は安心して僕を殺すといい。」



「エドワード…。」


息を詰まらせる俺にエドワードは「お前の仕事だろう?」と畳み掛ける。


「この汽車の1等寝台がなぜ満席なのか、知らないと言ったら兄さんはお前を叱らなきゃいけないよ。」


「1等寝台を利用する乗客全員が反逆者だ。

操縦士と従業員も共謀者だ。」



エドワードは「正解だよ。」と機嫌よく笑う。



「何で俺を止めない?

エドワードなら革命だって起こせるだろ?」



「ルーカス、この10年で我が国はどうなった?

隣国と繋がりが出来たことで隣国との戦争は無くなった。

民は戦に行く必要がないから、己の仕事に精を出した。そして国は豊かになった。

どうして革命を起こす必要がある?



不満があるのは、皇太子に権力が移ったことで力を失った貴族だけだ。

国や民のためでなく、自分のために平和な国に革命をもたらす者が、よき国をつくることが出来るとは思えない。」


「だからってエドワードが国のために犠牲になっていいわけない!」


「僕が村を壊滅させたことを忘れたのか?」



仮面の囚人が訪れた村の者は皆死んだ。

しかし死因は他殺ではない。

遺体には、特有の斑点があった。

国ひとつを動かすことのできる力。

それは感染力が高く、無差別に人を殺す病だ。



「エドワード、お前もう長くないのか。」



「僕の死体はしっかり燃やしてくれよ。

死体に残った病原体も十分に人を殺す力があるんだから。」



返事ができない俺に、エドワードは有無を言わさず命ずる。




「僕と、僕を担ぎ出して革命を起こそうとした反逆者たちを殺せ。」

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