3 運び屋
「姉さん!アリス姉さん、待てって!」
小型飛行機に乗ろうとする私を弟は追いかけてくる。
「邪魔しないでくれたまえ。これは私の仕事だと言っただろう。」
私の役目は、ルーカスの任務の補助だ。
汽車に乗ったルーカスとノアを小型飛行機でむかへにゆく。
ルーカスは基本的にノア以外に任務の詳細を教えることはない。
私に教えられたのは、汽車の中に紛れた反逆者を暗殺するということだけだ。
私は自分が何をしているのかもわからないまま、言われたことをやることしかできない。あの家でも、ここでも。
「おれが変わるって言ってるだろ!」
弟はなおもしつこく私を引き止めようとする。
「ルーカスの監視ならその機械仕かけのふくろうに任せればいいだろう。お前が来る必要はない。」
弟は皇太子と通じているルーカスの監視役だ。
ルーカスのために動いているわけではない。
だからルーカスは弟でなく私に補助を頼んだんだろう。
「姉さんは、おれが監視役だって知ってがっかりした?だからおれのことを裏切ったの?」
弟は突然しおらしくなり、泣きそうな顔をする。
「なんのことだ。」
「だって、おれが皇太子と通じているってルーカスに言ったのは姉さんだろ。姉さんはおれじゃなくルーカスに味方したんだ。」
家族は私のことを認めなかった。
私よりも、弟に後を継がせようとした。
だから私にはなにも知らされなかった。
家が禁止薬物を秘密裏に製造し続けていることも、
弟が王家の内通者であることも。
知らされないから、己で気づくしかなかった。
何も知らせないまま、私を利用しようとする家族なんか大嫌いだ。
理由もなく優遇される弟にも劣等心と妬みがある。
けれども弟を死に追いやりたくてルーカスに密告したわけではない。
「今ルーカスは皇太子に刃向かおうとしているわけじゃないだろう。なら監視役をすぐさま殺す必要はない。ルーカスに情報をもらしてもお前が殺されることはないと思ったのだよ。」
実際、ルーカスは弟の監視をやめさせるでもなく泳がせている。
ルーカスは別に弟を咎める気はないのだろう。
年相応に反抗的な態度を取る弟をノアが脅したのは計算外だったが。
ノアと弟は生意気な少年同士そりが合わないんだろうか。
弟は「なんだ、姉さんはおれを見限ってなかったんだ。」とへにゃりと笑った。
どうにもなぜ弟が私にこんなにも懐いているのかわからない。
嫌いなわけではないが、こちらは跡継ぎである弟にコンプレックスがあるのだから複雑だ。
「気が済んだのなら、私はいくぞ。」
「だめだって!」
立ち去ろうとした私の腕を弟はつかむ。
「あんな危険なところに姉さんをいかせられない。」
「お前は何を知っている?」
私は何も知らない。
だけど弟は知っている。
またコンプレックスが重なる。
「汽車に乗ってる反逆者は、辺境で脱獄囚を拾うつもりなんだよ。」
「なぜ反逆者が囚人の逃亡に手を貸すのだい?」
「そいつには国をひっくり返す力があるんだよ。
そいつはたった1人で一つの村の住人を皆殺しにしたんだ。」




