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狡猾なる勇者  作者: H2O
第四章
34/68

2 罪と罰

挿絵(By みてみん)


目が眩むほどの夕焼けのなかを進む蒸気機関車のデッキに俺は立っていた。

初夏の暑さをはらんだ風が頬を撫でる。


「うかない顔だね、ルーカス。」


顔を覗き込んでくるノアは暑さに合わせて上着を脱いでいる。

ゆったりとした上着を脱いだ聖服は、薄い身体を浮き彫りにしていて、妙に大人びている。



「そりゃ浮かない顔にもなるだろ。任務を考えれば。」



この汽車は明日の朝までに内陸側へ国を横断し、20の駅を経由して国境付近へと向かう。

終点につくころには、俺はまた人を殺しているんだろう。

乗客に紛れ込んだ反逆者を殺害する。

それが俺が生きるためにやらなければならない仕事だ。



始発の駅を出発してからすでに3つの駅を経由した車内では何人かの乗客が入れ替わっている。

終点までに乗客がみな降りてしまえばいいと思う。



憂鬱に流れる景色を見る俺に、ノアは「いまさらでしょ。」と呆れる。


「生きるためには働かなきゃならない。あたりまえだよ。」


俺だって、そう思ってた。

だからこれまでも任務をこなしてきた。

けれども、終わりがないことに気づいた。

俺は死ぬまで、命令されるままに罪を重ね続ける。



「生きていていいのか、わからなくなる。でも、死ぬのは怖い。」


思わず本音が漏れていた。


「死ぬのが怖いのは、願望ではなく義務感で死を待っているからじゃない?」


幼さの残る声は俺の心を指した。


「自分に生きている価値なんかない、死んだ方がいいって。でも、僕らはほんの小さな存在なんだよ。生きていようがさほど世界に影響はないんだ。」



まっすぐに見つめられ、ノアの背が出会ったときよりも伸びたことに気づく。


突き放すような言葉に、なぜか安心して。

ノアの瞳が夕陽に照らされて光っていて。

被虐心が煽られた。


「13隊隊長、騎馬の王、伯爵一族率いる貴族派の人々。みんな俺が殺した。それなのにまだ罪を重ねながら生きていくのか。」


「ルーカス、きみ勘違いしてるよ。」


夕暮れを背にしたノアは俺の言葉を固く否定する。


「死はただの終焉だよ。人間には死を持って罪をあがなうことなんかできない。」


「なら俺はどうやって罪に見合う罰を受けたらいいんだ?」


俺の罪が表に出ることはない。俺は法で裁かれることができない。

けれども俺は罰を欲していた。

罪に見合うだけの罰を与えてほしい。

それで罪深い俺が生きることを許されたい。



ノアは距離を詰め、俺を壁際へと追い詰める。


「教団では、生きていて出会う理不尽は神により与えられた試練なのだと考える。

生きる中で苦しみは避けられないんだ。

だから僕は、生きることこそが罰なのだと思う。」


方便だ。

ノアは教団の教えを引き合いに出し、曲解している。

そうだとわかっても、ノアの言葉には信じさせる力がある。

俺がノアを信じたいんだ。


「ノア、お前はすごいな。ノアがそういうなら、生きなきゃいけないと思えてくる。」


生きることこそが罰だとするならば、俺は俺が生きることを肯定できる。



ノアは特別な力を持つわけでもない、普通の少年だ。

そんなノアをなぜ参謀にして、なぜ危険を犯してでも手放したくなかったのか。


俺はノアに導かれたいと願っている。


ノアの瞳はそんな俺を見透かすかのようにみえた。



ノアは俺の襟元を引き寄せて囁く。


「簡単には死なせないよ。僕にはルーカスが必要だからね。」



俺はいま、ノアに生きる意味を与えられたのだ。

これを信仰と言わずしてなんと言おう。


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