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狡猾なる勇者  作者: H2O
第三章
32/68

7 裏切り


挿絵(By みてみん)




ふくろうの鳴く声が聞こえる。

おれのふくろうが帰ってきたんだ。


おれが部屋の窓を開けると、機械仕掛けのふくろうは白金でできた翼をはためかせておれの元までやってきた。


「おかえり。」


白金のふくろうが帰ってきたのは一週間ぶりだ。

脚には小さな紙が結び付けられていた。

紙を脚からはずしてやり開いてみる。

いつもどおり何も書かれておらず、王宮の紋章だけが押されていた。

このふくろうが問題なく任務を終えたことをしめす。

この子はここで起きたことの記録を王宮へ届け、ルーカスが皇太子が命じた貴族派の連中の暗殺に成功したと伝えてきてくれたのだ。



「へぇ、こいつがいるならお前が直接行かなくても俺たちの監視ができるのか。」


突然の背後からの声におれは言葉をなくした。


「ルーカス…。」


見られた。

言い逃れができない。

   

「ノアのかわりにお前を結婚式に参列させたのは余計だったかな。監視しやすいようにしたつもりだったんだけどな。」


ルーカスはそのときからおれが皇太子と通じていると知っていたのか。

冷や汗が背筋をつたう。



「そう焦るなよ、アイリス。お前の仕事ぶりには感心してるんだ。」


ルーカスはうさんくさい笑みを浮かべる。



「アイリスが俺の監視と弟への報告をしてくれたおかげで、オークションの摘発ができたんだろ?」



違法オークションの現場にルーカスが乗り込んで行ったとき、ルーカスを監視させていた白金のふくろうはオークションの会場と関係者を記録した。

おれが皇太子に渡したこの記録が証拠となり、皇太子は翌日にはオークションを摘発したのだ。

皇太子の対応が早かったせいで、ルーカスに監視役がいるとばれた。



「なんで監視役がおれだとわかった?」


「お前たちの家は薬物を秘密裏に王に納めてると言っていただろ。王家と繋がりがあることは知っていた。それに、勇者の遠征に参加する直前にアイリスが王宮を尋ねたと聞いたから。」


「誰から聞いた?」


「アリスだよ。」


ルーカスの言葉におれは全身の血がひけるのを感じた。


「姉さんが…?なんで…?」


姉さんがおれの情報を売った。

姉さんがおれを裏切った。



絶望するおれにルーカスは「そんな顔するなって。」とへらへら笑いかける。


「俺はお前をせめるつもりはないんだよ。」


余裕ぶったその態度に腹が立つ。


「善人ぶるなよ!裏切り者だって殴ればいいだろ!」


怒りに震えて声を荒げるおれに対して、ルーカスは余裕を崩さない。


「俺は裏切られてなんかないよ、アイリス。アイリスはただ生きるために仕事をしただけだろ。仕方ないことだ。」


「同情なんかするな!自分の方が優位に立ってるから同情するんだろ!」


再び叫んだとき、冷たく固いものが後頭部にぶつかる。


「立場をわきまえなよ、アイリス。」


「ノア…。」


ノアがおれの頭に拳銃を押し付けていた。


「監視対象に気づかれるなんて失敗、許されるはずがないよね?」


失敗したと知られれば、おれは死で責任を取らされるだろう。


「黙っててやるかわりに協力しろって取引か?」


ノアは冷たい声で「違うよ、これはおどしだ。」と警告する。


「僕が生きるためにはルーカスが必要なんだ。きみが彼にとって危険なら僕はきみを殺す。」


「神に仕える者なくせして、本当におれを殺せるのか?」


「もちろん。僕は余裕のない貧乏人だから、きみに同情なんかしないし手段を選ばない。」


「協力する気になった?」と挑発的に問うノアに、おれはうなずくしかなかった。



「よかった。きみはいままでどおり監視の報告をしてくれて構わない。ただ王宮より先にルーカスにその白金のふくろうを預けてくれれば。」


ノアは満足げな笑顔で命令した。



「話はすんだかしら?」


「いたのかよ、オリヴィア。」


ノックもせずに入ってきたオリヴィアはルーカスの言葉には答えずにノアのもとへやってきた。


「ノア、庭園に来て祈りの歌を歌ってちょうだい。あの2人が安らかに眠れるよう祈りを捧げたいの。」


「わかった。」



オリヴィアとともに庭園へ行くノアにルーカスもついて行った。


ひとり部屋に残されたおれはその場に項垂れた。


失敗したことより、脅されたことより、姉さんに裏切られたことがおれの心をえぐった。



やがて開けたままにしていた窓の外から、ノアの歌う声が聞こえてきた。


窓の下を覗くと、ノアが庭園に立てられた2つの十字の前に膝をつき歌っているのがみえた。


普通の少年の歌声だ。

この声が奇跡を起こす力をもつわけではない。

けれども彼の歌う祈りの歌には、神に祈りを届ける儀式としての意味があるという。


もしも本当に、祈りが届くのなら。


姉さんにも見限られるどうしようもないおれを、救ってくれやしないだろうか。



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