2 魂の双子
「キャシー、お前にはこの人と結婚してもらう。」
お父様がそうおっしゃったとき、私は心臓が冷えるのを感じました。
お父様に連れられてきたのは、揺らめく炎のような巻き毛の女性でした。
その方は私の手をそっととって、「オリヴィアと申します。どうぞよろしく。」と丁寧に挨拶なさいました。
「オリヴィアは名のある傭兵の家系なんだ。器量もよく、お前の相手に相応しい女性だろう。」
私の相手、でなく伯爵令嬢の相手として、なのでしょう。戦で近隣国の土地を奪った歴史なしにうちの一族が所持する広大な領地はありえません。
戦に強い傭兵の家系と繋がりが持てれば、さらに領地を広げられると考えたのでしょう。
私はオリヴィア嬢が嫌なのではありません。
親しげに微笑んでくれるオリヴィア嬢には、好感をいだきます。
けれども、私はオリヴィア嬢との結婚は望んでいないのです。
階段の踊り場に立つヒースお兄様が、悲しそうにこちらを見下ろしておられます。
どうかそんな顔をなさらないで!
私の魂は、お兄様とひとつなのですから。
私は、伯爵であるお父様、その妹の叔母様、叔母様の息子で私の従兄弟にあたるヒースお兄様の4人でこの屋敷に暮らしております。
私は母によく似ているのだそうです。
私を産んですぐに母は亡くなったので、私は母の顔を知りません。亜麻色の髪も生意気そうにつんとした鼻も、母と瓜二つだとお父様はいいます。ただひとつ、瞳の色だけはお父様ゆずりでした。
お兄様もまた、私の叔父の生き写しだと言われております。叔父も亡くなっていますので私は叔父を知りません。お兄様の硬そうな黒髪と、片方の口角だけきゅっと吊り上げる笑い方が叔父によく似ているのだそうです。
そうしてお兄様も、瞳の色は叔母様譲りです。
ですから、私とお兄様は同じ緑色の瞳を持っているのです。
お兄様はおっしゃいました。
「キャシー、君の瞳を見つめてはじめて、僕は僕であることを知るんだ。君の瞳の色が、君と僕はひとつの魂を持っていると教えてくれる。」
私もおなじ気持ちでした。
お父様は、私を通して亡くなった母を見ます。
お父様が愛しておられるのは私ではなく、母だけです。
お兄様だけが、私を見つめてくださるのです。
お兄様のエメラルドグリーンの瞳にうつる私の瞳が、私が私であることを教えてくれるのです。
私がお兄様と共にあるために生まれてきたのだと教えてくれるのです。
私とお兄様は魂のふたご。
何をするにも、どこへ行くのもお兄様と一緒でした。
私とお兄様は2人でひとつ。
離ればなれでは生きてゆけないのです。
ですから、私はお父様がオリヴィア嬢と結婚を取り決めたことに悲しまずにはいられないのです。
たとえ私とお兄様は、決して結ばれることが許されないとわかっていても。




