12 三十枚の銀貨
「アリス、あとどのぐらいで着く?」
ルーカスは私に静かな声で尋ねる。
平静を装っているが同じ質問を繰り返している。
「急かさないでくれたまえ、あと20分ほどはかかる。」
返事はない。どうも気が立っているらしい。
気に入りのノアがオークションで売らているのだからルーカスが焦るのも無理はない。が、オークション会場の正確な位置すら知らされていないのに小型飛行機を操縦するこちらの身にもなってほしい。
文句は飲み込み、私はさらに速度をあげた。飛行機は雲の間をすり抜けながら草原の上空を飛んでいく。
「エマ、オークションの会場はどんなところなんだい?」
エマは「すまない、私も実物は見たことがない。」と言いながらも、「怪しまれないように表向きは見せ物小屋になっていると聞く。」と情報をくれた。
「きっとあのテントのようなものだね。」
岸辺に立つ赤と白の縞模様のテントが見えてきた。
ルーカスはそれを確認しようと窓に張り付く。
「おとなしくしてくれよ。これから着陸する。」
私は予告すると、着陸に向けて飛行機の高度を下げた。
着陸するとすぐ、ルーカスは飛び出していった。
「おい、いきなり乗り込むつもりか。無防備にも程があるだろう。」
あとを追うエマに叱られても、ルーカスは「俺は襲撃に行くわけじゃない。客として行くだけだ。」と足を止めない。
「坊ちゃん、まさか売られる他の子どもたちを見捨てるのか?」
「弟に報告はするさ。どう対処するかは弟が決めるだろ。俺は雇われの勇者なんだから勝手な事はできない。それにこの戦力では無理だと言ったのはエマだろ。」
「ノアさえ助けられればいいというのか。」
「お前だってシャーロットのためならそうするだろ。」
言い返せなくなったエマは黙ってルーカスについて行く。
私は2人に置いていかれないように急いだ。
見せ物小屋のテントの中は、華やかだがどこか下品で毒々しい。
煌びやかなステージ何人もの子どもが並ばされている。
もうオークションは始まっていたようで、観客が「2番に銅貨5枚!」「6番に銅貨3枚!」「2番に銅貨8枚!」と値付けするのを商人が囃し立てていた。
銅貨8枚とは観客はかなり貧乏なようだ。
まともに使用人も雇えないような者たちが違法に労働力を手に入れる場なのだから当然か。
ルーカスは観客を押し除けて前へ進んでいく。
「銀貨30枚。」
足並み揃えない金額に観客は静まるが、ルーカスは止まることなくステージへ登っていく。
「旦那様!どの商品をお買い上げで?」
ルーカスは揉み手をする商人に低い声で答える。
「私が接吻するのがその人だ。」
ルーカスは1人の少年の前に跪き、その手に恭しく接吻した。
「銀貨30枚と引き換えか。ずいぶん僕を高く買ったじゃないか、ルーカス。」
ノアは満足げに笑った。
「お前を買うには足らないぐらいだろ。」
「十分だよ。教団の者が一番顔を顰める金額だ。」
皇太子殿下の命令でオークションが摘発されたというニュースがラジオに流れたのは私たちが船に戻った翌朝のことだった。
ルーカスが皇太子殿下に報告したにしても不自然なほど早い対処だ。
売り手も買い手もオークションに関わった者は皆罪に問われ、子どもたちは王国に保護された。
しかし取引をしたはずのルーカスが罪に問われることはなかった。
それで私は、私たちの行動が皇太子殿下に監視されていること、皇太子殿下の内通者が船にいることを確信した。




