11 売買
「やぁルーカス、帰りが遅いからお迎えにあがったよ。」
俺がプロペラ機に乗り込むと、操縦席のアリスが得意げに笑った。
「助かったよ、アリス。何でここがわかったんだ?」
「レニーが早朝に鉄の馬に乗った王子様に連れられて帰ってきたのだよ。その王子様が教えてくれたのさ。」
ユーシェンか。
ユーシェンは自分の父が俺を始末しようとすることを予想していたのか。
今回はユーシェンに助けられてばかりだ。
けれど気がかりなことがある。
「エマ、ノアは見なかったか?」
エマは首をふる。
「荷台に乗せられていたのは私とルーカスだけだった。ノアは別の場所に連れられたんだろう。行き先は予想がつくがな。」
「ノアはどこに行ったんだよ。」
食ってかかる俺にエマは冷たく返す。
「私や坊ちゃんと違って、あの子は出自がはっきりしていないだろう?商品として売れる。」
我が国内ではさらわれた子どもが売られていると噂がある。
無論違法なのだが、まともに人を雇えないほど貧しいために、違法に子どもを働かせる者が後を経たないのだ。
まがりなりにも王族である俺や、王族と繋がりの強い騎士であるエマは、売れば足がつく。
それに未成年だが子供と呼ぶほどの歳ではない。
だから俺とエマは殺そうとしたのだろう。
けれどノアは以前、教団にとって自分は使い捨ての駒だといった。
保護する者がいない子供のノアは商品として売ることができると思われたのだろう。
「エマ、ノアが連れてかれた場所に心当たりはあるのか?」
「噂だがな。草原の果ての岸辺でオークションが行われていると従兄弟から聞いたことがある。」
エマの従兄弟は王国軍軍隊所属だ。そこから聞いた情報なら行ってみる価値はあるだろう。
「草原の果てへ向かうかい?」
方向転換をしようとするアリスの言葉に、エマが待ったをかける。
「坊ちゃんはずいぶんとあの少年に入れ込んでるが、危険を犯してでも助けに行く価値があるのか?」
「情に弱いお前には珍しい意見だな、エマ。」
思いの外低い声が出た。
「そう睨むなよ。坊ちゃんはノアを参謀にしてるようだが、それほどあの子は賢いのか?あの子の計画は失敗しないわけじゃないだろ。」
「俺が騎馬の王を見つけるより先にユーシェンに見つかったのは俺の失態だ。」
今回かなり不利な状況になったのは迂闊に身分を明かして聞き回った俺のせいだ。
そうでなくとも実行に移すのは俺なのだから、責任は俺にあるだろう。
「前回は通り魔が出てこなきゃ最初の計画で通ってた。」と付け加えれば、エマは白々しく「お褒めに預かり光栄だ。」と笑った。
「それで、何処へ向かえばいいんだい?早く決めてくれたまえ。」
行き先を急かすアリスに俺は、「草原の果ての岸辺へ向かえ。」と命じた。
「おい、いま戦えるのは私だけなんだぞ。オークションに乗り込むのは無謀だ。」
渋るエマに俺は言い返す。
「俺はエマほど情深くないからな。他の商品に用は無い。オークションを妨害することはしない。ノアを連れ帰るだけなら危険はないだろ。」
エマは苦々しく「坊ちゃんはさすがの冷徹さだな。」と吐き捨てた。




