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狡猾なる勇者  作者: H2O
第二章
21/68

8 宴

挿絵(By みてみん)



「あとはこれだけ運び出せば終わりだね!」


ユーシェンが敷物を指差す。


ルーカスとノアが騎馬の王に呼ばれたあと、俺とエマはユーシェンに頼まれて宴の準備を手伝っていた。


「レニー、そっち側持ってくれ。」


「おう、わかった。」


ユーシェンと俺は敷物を2人で運び出す。

エマは離れたところで灯りを準備している。 


ユーシェンと2人のいまなら聞いてもいいだろう。


「なぁユーシェン、お前なんで馬鹿なふりなんてしてんだ?」


ユーシェンは先王の息子だ。

本来ならそんな高貴な身分のものが俺たち使用人とともに宴の準備をするなどあり得ない。

けれど騎馬の民たちはそんなユーシェンを見ても何もいわない。

騎馬の王と同じように、ユーシェンを馬鹿だと思っているからだ。

実際、王の前でユーシェンは間抜けな言動をしてみせ、宴の準備をするときも大袈裟に皿を割ってみせたりした。


バザールで出会ったときのユーシェンは頭が切れるやつだった。

ユーシェンが馬鹿だと思われているのが、俺はなんだか悔しかった。


俺の言葉にユーシェンは少し驚いたあと、あの猫に似た笑顔を浮かべた。


「能ある鷹は爪を隠すってやつさ。馬鹿なふりで命を守れることもあるのさ。」





「おい、酒が足りないぞ!早く用意しろ!」  


宴の最中の調理場は慌ただしい。

俺は客人とはいえ使用人であるため、当然宴の席には付かず調理場で働いている。


突然、宴の会場が騒がしくなった。

悲鳴があがり、皆がバタバタと駆け抜けていく。


宴に参加していた男たちが調理場に走ってきた。


「おい、早く水を持ってきな!」


怒鳴られた俺は急いで水差しを用意する。

水を汲みにいくと、給仕を手伝っていたエマがいた。


「なぁ、何があったんだ?」


「騎馬の王に毒が盛られたらしい。盃の酒に口をつけると苦しみ出して倒れたんだ。」



水の入った水差しを持った俺とエマが会場に駆けつけると、騎馬の王が倒れていた。


「早く水をよこしたまえ!」


老人、恐らく医師なんだろう、が俺の水差しを奪い取った。

医師は騎馬の王に水を飲ませようとするが、騎馬の王は動かない。

医師は男たちに指示する。


「王を私のゲルに運んでくれ。」


騎馬の王は男たちによって医師のゲルに運ばれた。


しばらくしてゲルから戻った医師は静かに首を振った。


「手は尽くした。」


あちら方らで、囁き声がする。


「失礼、通してくれ。」


ざわつく民を横切って、ルーカスがノアを連れて前へ来た。


「この者は神に使える者だ。月の女神の洗礼を受けた騎馬の王とは違い、太陽の女神の洗礼を受けているが、同じ神に支えている。この者に祈りの歌を歌わせてくれ。」


「神を愛し、神に愛された魂が救われることを祈って。」


ルーカスに命じられ、ノアは祈りの歌を歌う。

松明の炎に照らされて、歌うノアの影が揺れる。

変声期の声が紡ぐ歌が夜空を包んだ。


  

ノアが歌い終わると、信じられないことが起こった。

騎馬の王が運び込まれたゲルの中から影が現れた。現れたのは、顔にベールをつけた恰幅のよい男。身に纏っているのは先ほどまで騎馬の王が着ていた服だ。



「騎馬の王が復活した!祈りが通じたんだ!」


ユーシェンが大声で叫ぶ。

騎馬の民たちは王の復活を驚き、そして大いに喜んだ。


騎馬の王は高らかに宣言する。


「俺は神のご加護により死から蘇った。俺は神を愛し、神は俺を愛してくださったんだ。俺はこれからより一層、神にこの身を捧げ、神の教えに従うことを誓う。」


奇跡を目の当たりにした民たちは王を崇める。

王はノアの肩を叩いて続ける。


「この小さなお客が、歌に俺の祈りを乗せて神に届けてくれたんだ。近頃は同じ神を信じる国々が争うと聞く。しかし俺は神の教えと、この客人に免じて、そのような争いには関わらないと誓う。」


王は盃を掲げ、「さぁ、宴を続けよう!」と叫んだ。

騎馬の王の復活により、宴はより一層の盛り上がりをみせた。




 夜ふけまで続いた宴のあと、俺たち使用人は片付けに追われた。

暗闇で使用人たちがあくせく働く中、大きな袋を持って暗がりに進んでいく者がいる。

俺はそいつを追いかけた。


大きな袋をもった男は、ゲルの群れを通り過ぎていき、崖に向かっていった。

崖につくと、そいつは荷物を地面に下ろして足を止めた。

きっと、こちらが声をかけるのを待っていたんだ。


「なぁ、ユーシェン!お前なんか知ってんだろ?」


ユーシェンは振り返る。


「何のこと?」


「死者が蘇るなんてありえねぇ。祈りってのはそういうんじゃねぇだろ。」


暗がりの中でも、ユーシェンがニィとしたのがわかる。


「レニーは賢いね、よくそんなこと知ってるね。」


「誤魔化すなよ!」


問い詰めると、ユーシェンはささやいた。


「蘇ってなんかないさ。騎馬の王はここにいる。」


ユーシェンが袋を開ける。

中身は、人だ。

いや、人ではない。死体だ。

さっきまで騎馬の王だった、死体。


あっけにとられているうちに、ユーシェンは死体を崖から投げ捨てた。



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