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狡猾なる勇者  作者: H2O
第一章
11/68

11 騎士と傭兵

 建物の影に隠れて息を潜める。数メートル先に3人の13隊兵が夜の警護をしている。

最近は兵も警戒を強めて集団行動をするようになった。私の実力では3人相手に奇襲を仕掛けても、全員に致命傷までは負わせられないだろう。それでもなんとか足の骨の一本ほど折ってやりたい。



夜中に背後から奇襲をしかけて反撃される前に逃げるなんて卑怯なことをしているのを、師範は何と言うだろうか。 

通り魔になり家に泥をぬっているのだから、師範には軽蔑されるだろう。


兵士たちに奇襲をしかけるため、陰から飛び出そうとしたとき、目の前に剣先が立ちはだかった。



「ひさしぶりね、エマ。」


昔と変わらない、燃える炎のような揺らめく巻き毛にそばかす。


「なにしてる、オリヴィア。」


「今の私の任務は、あなたを止めることよ。」


連日13隊兵士を襲った通り魔が私だと知っているのか。

オリヴィアの雇い主は私の狙いが13隊の兵力をそいで反乱を防ぐことだとわかっているんだろう。


「雇い主はルーカスか。」


「ええ、そうよ。」


オリヴィアも私も同時に剣を構える。


「勇者の遠征に行ったんじゃなかったのか?勇者様ご一行がこんなところで何している。」


私はゆっくり後退して間合いを開く。

私の挑発にオリヴィアはのらない。


「この地は救済が必要だったのよ。」


「なにが救済だ、反乱を企てたくせに。」


地面を蹴り上げて一気に間合いを詰めて切り掛かる。

剣がぶつかる高い金属音が港に響く。

私の剣を受け止めたオリヴィアは挑発的な笑みを浮かべた。


反動を利用して後ろに跳ぶ。

すかさずオリヴィアが飛び込んでくる。

地面に片手をつく形で着地した私は立ち上がると、近づいてくるオリヴィアの顔めがけて砂をかけた。


「なにすんのよ!」


「いつかの仕返しだ!」


オリヴィアが目を開けられないでいるうちに彼女の手から剣をはたき落とす。

そのままオリヴィアの肩を押してマウントを取った。

しかしすぐに短剣の剣先が飛んでくる。

私は短剣を握るオリヴィアの腕を掴んで押さえ込んだ。


「自決用の短剣じゃ勝てないぞ、オリヴィア。」


オリヴィアが握っている短剣は通常自決用として使われるものだ。


記憶の中の、幼いときのオリヴィアの声が頭の中で響いた。


「私の一族は自決用の短剣を持たされることはないわ。家族は、絶対に生きてかえってくると信じて待っていてくれるから。」



それなのに、オリヴィアは短剣を持っている。



「なぁ、お前の家族はお前がこの遠征で死ぬと思ってるんだろ。オリヴィア、お前売られたんじゃないか。」


動揺する私をオリヴィアは鼻で笑う。


「シャーロット嬢に入れ込んで暴走したと思ったら、今度は私に同情?相変わらず情に厚いのね。職務放棄は1人でやってちょうだいな。」



職務放棄。確かにそうだ。

だけどもう私は誰かに利用されるために命をかけるのは嫌なんだ。


「私は今自分の意思で戦っているんだ。お前はなんで生きて帰れないかもしれないのに戦ってるんだ?あの坊ちゃんに惚れたか?」


オリヴィアは眉間に皺をよせた。


「金にならない戦いをしてるあなたといっしょにしないでちょうだい。私を遠征に出せば家に金が入り、成功すればさらに報酬がでる。失敗しても損害はないわ。」


「お前の命と釣り合うほど高い報酬なのか。」


「王のために戦った名誉もいただけますもの、私を嫁がせるよりよっぽど得よ。父は私の命を最大限高く売ったわ。」


「やっぱり売られてるじゃないか。」



「父は使えるものはなんでも使うのよ。生きるためですもの。私も同じようにするわ。」


オリヴィアは右足で私を押し蹴った。

私がバランスを崩したすきにオリヴィアは立ち上がる。


「あなたは私を殺せないのよ、エマ。あなたの仕事はルーカスを守ることよ。あなたのご主人の命令よ。」


オリヴィアは封筒を取り出して私に押し付けた。


「あんたに殺されかけてもきちんと命令を届けた私の仕事ぶりを褒めてほしいわ。」


シャーロットの印象指輪で封蝋がされていた。

剣で封を切り、中身を取り出す。



我が騎士に 命ずる。

我の婚約者 ルーカスの 勇者の遠征に同行し 

彼を護衛せよ。


「シャーロット…なんで…。」



「普通なら勝手に屋敷を抜け出したあんたは解雇される。寛大なシャーロット嬢は自分の命令であんたがルーカスを助けにいったって庇ったのよ。この命令に背くなら、私はシャーロット嬢に通り魔になったエマを捉えたと報告しなきゃならないわ。私はどちらでも構わなくてよ。」



ルーカスがシャーロットに接触してこの命令を出させたに違いない。

この命令が出た以上、私がルーカスの護衛につかなければ、私を庇ったシャーロットを裏切ることになる。


力がぬけて膝をついた。

オリヴィアは勝ち誇って微笑む。

戦意喪失した相手を挑発する性格の悪さは変わらない。


「主人はあなたには感謝してるのよ。あなたのおかげで当初の計画よりずっと簡単に目的が果たせるから。」


「お前たちは反乱を企てたんじゃないのか。」


「いいえ。狙いは13隊の解体よ。」



私は命令に背いて自分の意思で動いても、誰かに利用されてしまうのか。


オリヴィアがフンと鼻を鳴らす。


「ご心配いただかなくても、私は私の命を無駄にしないわ。あなたと違って。」


剣が手から滑り落ちた音が港に響いた。



挿絵(By みてみん)

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