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第3話



 「…あの世?」


 「少し今、困っていてね。というのも、この写真の子。すごい美人だよねえ」


 「…それが、どうかしたのか?」


 「彼女もペルソナと接触してる。いや、正確には、ペルソナに体を奪われてる。早いとこ救ってあげたいんだけど、手がかりがなくてさ」



 彼女も…?



 今の状況を整理しようと必死になった。大体なんで俺は鎖で繋がれてる?…っていうか、なんで裸なんだ?わかっているのは独房のようなこの部屋と、見覚えのある服を着た男だけ。


 俺の名前…


 …そうだ、俺の名前は…




 「日向坂爽介(ひゅうがそうすけ)君、だっけ?」


 「…あ、はい」


 「困ったことに、手がかりは今キミだけなんだ」


 「は?」



 男は深刻そうな表情を浮かべるでもなく、不敵な笑みを浮かべながら俺の前にしゃがみ込んだ。上から下までジロジロと見てきては、「立派なイチモツだね」の一言。なんつーモラルのないこと言ってんだコイツは。意識はハッキリしないが、流石に突っ込みそうになった。



 「手っ取り早いのは、キミの細胞を採取して痕跡を辿ること。だけどその場合、キミを殺さなくちゃならない」



 男は平然としてた。平然と、冷ややかな言葉を投げかけてくる。まるで舌の上で飴玉を転がしてるようだった。トーンに歪みはなかった。真剣さとはかけ離れた声のトーン。その音程の奥には、シャボン玉のような軽やかさがある。どこまでも軽やかで、感情の起伏さえ見えない。不気味だった。目の前にいながら、同じ目線で会話しているような気にはなれなかった。見た目はさして俺と変わらない。どこにでもいる高校生のようで、見た感じ2〜3個離れた年上っぽかった。どこかヤンチャっぽくて、それで…



 「冗談だよ。真に受けないで」



 本気なのか本気じゃないのかがわからない。コイツの言ってることが全部怪しくなってきた。そもそも俺がペルソナと接触したという確証はない。記憶がないのが証拠だ。それにこの状況…。まさか、…コイツ。



 「おっと、変な妄想はやめてくれよ。さっきも言ったように、僕はキミの“命の恩人”なんだよ?そんな目で見られると傷ついちゃうなぁ、ボク」


 「そんな話急に言われても信じられるかっつーのッ…!大体どこだよ、ここは!?」


 「ここ?ここは医務室だ」


 「嘘つけ!こんな無機質な医務室があるか!治療中とか言ってたが、胡散臭いんだよ!」


 「キミの想像の中にある”医務室”がどういうところかは想像しかねるけど、ここは立派な治療室だよ。余分なものが何もない。知ってる?人体を“改造する”時は、寝てるより立ってる方がやりやすいんだ。今のキミみたいにね」


 「…何訳わかんねーこと」



 くそッ



 天井からぶら下げられた鎖はびくともしなかった。いつもの俺ならこんな拘束ワケもない。ただ思うように力が入らない。頭はグラグラするし、吐き気がするほど目眩がする。頭の中によぎったのは、コイツ自身が“ペルソナ”であるという可能性だった。ペルソナにはいくつかタイプが存在する。人型のものもいれば、体長が10m以上のデカブツも。



 「僕は執行課の人間だ。ほら、見なよ」



 必死に拘束を解こうと躍起になっているそばで、男は襟の裏側についたピンバッチを見せてきた。「E」の頭文字を土台にした、角ばったデザインのロゴ。黒いネクタイについた銀色のピンには、“東京保安部”のシンボルマークが。



 「なッ…」


 「どうやら、知ってるようだね。このマークのこと」


 「…知ってるも何も、まさか…」 


 「理解したかい?僕が誰であるかを」



 男が「誰」か。それは、すぐにわかった。…そうか。そのスーツ。どこかで見覚えがあると思った。“東京保安部の黒スーツ”と言えば、「暗部」と呼ばれてる闇の部隊のことだ。表向きは執行課と呼ばれてるが、実際は“公安”の名を借りた「ヤクザ」だって…



 「保安部の連中が、どうして…」


 「どうしてって?決まってるじゃないか。ペルソナを駆除するためだよ」


 「防衛軍は!?あんたらの仕事は地域の取り締まりだろ??」


 「防衛軍?生憎、そんな大がかりなことにはまだなってないんだ。僕はある事件を調べててね」


 「…事件?」


 「まあ僕というより、“僕たち”かな。最近少女が失踪する事件が頻発しててね」


 「少女…が?」


 「最近といっても、もう2年くらいかな。最初の失踪は静岡の方で起きた。それから約二十数件だ。今回は、同じ“反応”が起きたという情報をキャッチしたんだ。類似してるんだよ。今回キミの身に起きたことと」



 少女が失踪してる。その発生箇所は不規則で、広範囲に及ぶそうだった。東京保安部が動いているのは他の都市部、——つまり被害があったエリア担当区の部署と合同調査に乗り出しているからで、男はたまたま、過去の事件と類似性のある今回の”事件”への調査を依頼されたらしい。どうやら俺は、学生寮に住んでいる生徒に発見され、病院に運ばれたそうだった。発見された当初は裸で、生気を失ったように“しわくちゃ”になってたらしい。男が言うように、ほとんど死にかけていた。それがホントか嘘かは知らないが、過去の事件でも同様のことが起こってたっぽく、失踪した少女の近辺でミイラ化した男性が見つかったそうだ。骨と皮だけになった、“抜け殻“が。



 「キミはまだ運が良かった方なんだよ。過去の事件を見ると、発見当初で生きていた男性はほんの一握りだって。タイミングもあるんだろうけど、現状生き残っているのはキミだけだ。発見当初は生きていた人たちも、そのあと程なくして死んでるから」


 「…ちょっと待て、…つまり、こうか?その写真の子が、今は失踪してると…?」


 「そういうこと♪そこで相談なんだけどさぁ」


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