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第33話



 ——ドンッ



 観戦していた生徒から歓声が上がる。『GALAXIAS』の表紙を飾った生徒として、簡単に負けるわけにはいかない。膝をついていた下半身に力を入れる。右手の手のひらは体を支えるために地面に接着していたが、防御姿勢を取るためのアプローチは疎かのままだった。その代わり——


 風香はオーソドックス型のアンダーテイカーだ。肉体系(身体系)であり、フィジカルを主体に戦術を組み立てる近接型のファイター。ファイターにとって、ピンチを脱するために必要な要素の一つは、いかに「自分のスペース」を作り出すことができるか。


 相手の攻撃が止まらないことはわかっていた。「有効打」となったボディへの一撃は、思いの外ダメージが大きい。これ以上の被弾は避けるべきだった。相手の追撃が届かない位置と、——場所へ。


 ギリッと奥歯を噛み締め、全身に力を入れる。脱力するところは脱力し、一気に息を吸った。歓声が上がったのはその後だ。右手と左膝。それぞれの支点を利用しての跳躍。全体重を地面にぶつけるように、勢いよく上空へと飛び上がった。



 「うおッ!?」


 「一度整理するつもりなんじゃない?わずかな時間だけど、それでも…」



 高さにして数十メートル。弾力性のある地面が、跳躍と同時に下に凹む。衝撃音が周囲に広がる。重力に逆らうように上昇し、フワッと脱力した姿勢を保った。



 ズッ



 上がるだけ上がった後は、自重による落下が始まる。右手は伸びていて、上体はくの字に屈んでいた。相手の攻撃は一時的に中断された。まさか、上空に飛び上がるとは思わなかったのだろう。しかし気を抜くわけにはいかない。一時的に離脱できたとはいえ、地面に戻るのには数秒もない。風香は着地までの時間を利用し、体勢を整えた。相手がどこにいるか。まずはそれを探すことが先決だが、そのためには相手の特性を正確に知る必要がある。



 トッ



 地面に降り立ち、スッと立ち上がった。防御姿勢を取る様子はなかった。両腕はぶらんと垂れ下がっており、“ただ立っているだけ”のようにも見えた。



 『蒼い実線-ブルー・フィールド-』



 風香の片目が蒼く光り、モヤのような煙が瞼の上に立ち上がる。相手は待ってはくれなかった。ほとんど棒立ちの風香を目掛けて、狙い澄ました一撃が奔る。


 ——しかし



 「避けたッ!?」



 一撃だけじゃない。相手の攻撃をかわし続け、かつ、落ち着いている。さっきまでの動きとはまるで違った。ガードを固め、全て受け切ろうとしていたスタンスから、別人のように脱力している。



 「腹を括ったんじゃない?」


 「へ??」


 「ガードでなんとかなると思ってたんだろうけど、そううまくいかなったみたいだし」


 「あの「眼」はなんだよ!?」


 「風香の技の一つだよ。相手の姿が見えないなら、見えるようにすればいいだけ。あの青い眼は、センサーのような役割を持ってる」



 

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