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第16話



 長い廊下に、背の高い天井。


 学校は全校生徒1万人という大規模な人数を収容する施設だけあって、学科ごとに分かれた四角い形状の建物が、広い敷地の中に敷き詰められるように並んでいた。建物は全て頑丈な素材でできており、かつ複数階に分かれた階層式の構造になっていない。6階建以上の高層ビルも存在するが、安全性の観点から、シェルターのような強固な箱型の空間を基礎にした建物が中心となっていた。建物の外壁は何層かに分かれた開閉式のシャッターで覆われていて、普段は外の光を取り込むような作りになっている。元々は「防衛」という観点から全面が強固な素材で覆われていたが、最近になってシャッター式の壁に切り替わるようになった。理由は諸説あるが、閉鎖的な空間が心身にも影響を及ぼすとかなんとか。機能性と快適性という両面から、今のデザインが推奨されるようになったらしい。そのおかげで室内は明るく、開放的な空間になっている。普通科の教室がある『C-東館』は、20mにも及ぶ天井が吹き抜けの大空間を作っていて、一定間隔で設置された巨大な柱や、大胆に切り取られた通路が施設内の骨組みを形作っていた。



 「どこまで覚えてるの?」



 保健室を出て、カフェがあるオープンテラスの窓際を歩いてた。よく、ここに来ていたらしい。農業科の生徒が運営する学園内のカフェ、『自由が丘牧場』。農業科の施設にある農場と牧場。そこで管理する食品を使って構成されたメニューを展開し、中でも人気なのが、“ふわトロスフレ系パンケーキ“と呼ばれる特製のパンケーキだそうだった。学生はもちろん、学校関係者以外の人たちにも人気のカフェで、学校内にはなんと12店舗も存在しているらしい。彼女はテラス席の椅子に座り、「何か飲もうよ」と言ってきた。



 「いや、いいよ。今手持ちになくて…」


 「奢ってあげる。今日だけ特別だよ?」



 彼女は少しの間落ち込んでた。どこかしょんぼりしてて、話してる時も上の空って感じだった。話してるうちにだんだん明るくなっていって、気がつけば自然と笑顔が溢れるようになってきた。テーブルにドリンクが運ばれてきて、俺たちはいろんな話をした。



 「ちょうど1週間前にさ、喧嘩したんだよ?私たち」


 「俺と、…キミが?」


 「そうそう」


 「…なんかあったのか?」


 「そりゃ、もう。原因は爽君」


 「俺!?」


 「ふふっ。まあ、半分は私かもね?」


 

 気さくに話す彼女は、トールサイズの抹茶フラペチーノを飲みながら、時折空を見上げてた。彼女と俺は友達で、同じ学科。…ということらしいんだが、全く実感は湧かなかった。見れば見るほど、遠い存在に感じる。流れるような長い黒髪が目を引く。吸い込まれてしまいそうな大きい瞳に、シャープな印象を持つ顔の輪郭。研ぎ澄まされたナイフのような、そんな印象さえあった。“怖い”っていうんじゃなくて、…なんていうんだろう。ぱっと見は正統派で、クセのないスッキリとした目鼻立ちが瞳の中に飛び込んできた。くすんだ印象はどこにもなくて、ハッキリとした色合いと質感が、真っ白な背景の中に浮かび上がった。「キレイだな」って思った。純粋に、——ただ、それだけを。話していくうちにわかったんだ。頭のいい子なんだろうなって。頭が良くて、感情が豊かで、そのくせ、ずるいくらい“透き通ってる“って。


 多分、そこなんじゃないかな?嘘みたいに整った全体の印象の奥には、膨らみのある大人びた面持ちがあった。触れればなんでも切れてしまいそうなほどに鋭い”くすみのなさ”が、何気ない仕草の中に見えた。派手な印象はどこにもないのに、“くっきり”していた。原色を使った青。畑一面に咲いたひまわり。——そういう、澱みのなさが。

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