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第11話



 「…ハ、ハハ」



 …何かの冗談だよな?彼女が冗談を言ってるようには見えなかった。だからって、今が5月…?西暦2063年の文字が、壁にかけられたカレンダーの中に見える。記憶を間違えることなんてない。そりゃ誰だって記憶が混同することくらいあるよ?昨日何食べたっけって、よく思い出せない時も。


 だけど、“今が何年か”なんて、滅多なことじゃ忘れない。間違えて計算することはあっても、“昨日何があったか”を丸ごと覚えてないなんてあり得ない。5月な訳がないんだ。「今」が。入学式を終えたばかりで、河川敷には桜が咲いてた。春の季節の訪れが、涼しい風を連れてきてた。これから新しい生活が始まるんだって、ワクワクしてる自分がいたんだ。ぶっちゃけ、不安の方が大きかったけどさ?



 「…俺と君は、知り合いなの?」



 そう尋ねると、彼女は一際寂しそうな顔を浮かべた。俺自身も、何でそんなふうに聞いたのかわからなかった。どう考えたって知り合いじゃない。会ったこともないし、見かけたこともない。聞くまでもないことだった。…ただ、あまりにも、彼女がまっすぐ見つめてくるから。



 「…そっか。でも、よかったよ。目を覚ましてくれて」



 少し強張ったような顔をして、——それでも、透き通った笑顔を向けてくる。俺は思わず見惚れてしまった。会ったばかりだというのに、どこかホッとできる温かみがあった。


 サヤ。


 もう一度その名前を、頭の中に反芻する。…わからない。わからないけど、彼女が何か知ってる…?本当に今が5月なら、——西暦2063年なら、あれから1年以上が経過してるってことになる。


 …1年だぞ?でも、そんなことあり得るのか…?設定した覚えのないスマホの待ち受け画面を見ながら、恐る恐る尋ねた。



 「入学式??」


 「ああ。昨日、…入学式だった。城ヶ崎さん…だっけ?君も1年?」


 「私たちは2年だよ」


 「そっか、そうだよな。1年経ってるんだったら、…そうか」



 理屈はわかる。だけど、全然ついていけない。学生手帳を見た。自分の名前に、自分の顔。そこには確かに、東京第3支部“二年”と書かれていた。間違いなく、俺の手帳だった。

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