第47話 最後は薪割りをしよう
ということで、夜は僕の宿に泊まっていった。
昼間は大変体を動かしたので、夕食ももりもり食べ、僕の部屋に来た頃にはうつらうつらしていたビータ。
すぐに眠ってしまった。
寝る子は育つ。
「ふんふん」
コゲタが、ビータのにおいを嗅いでいる。
「コゲタにはチャームが通じないんだな」
「コゲタわからない。コゲタご主人すき」
「そうかそうか」
わしわしとコゲタを撫でた。
その後、僕もベッドで寝た。
横にビータ、枕元にコゲタが寝ており、ベッドがなかなか狭い。
だがこんなのもたまには良かろう。
朝は顔を洗って口をすすいだ後、朝食を摂りながら今日の話をする。
「一応依頼は今日までだからな。最後は体を動かして終わりにしよう」
「体を動かすって……。昨日も結構動いてた気がします」
「あれは持久力的な意味での運動だったな。今回のは筋力だ。つまり、密林の第一伐採所へ向かい、そこで薪割りのバイトをする……!!」
「ま、薪割り……!!」
この様子では、ビータは薪割り未経験だな。
その細腕では、冒険者にはなれないぞ。
どれだけ頑張れるか見てやるとしよう。
コゲタが一晩ですっかりビータに慣れたので、今回は彼も連れて行くことにする。
戦闘力は皆無だが、鼻が利くし手先はそこそこ器用だから、細々とした手伝いに向いてるのだ。
さて、伐採所に到着すると……。
職人たちが並んで難しい顔をしていた。
だが、僕を見てパッと表情を輝かせる。
「ナザルじゃないか!」
「最高のタイミングで来てくれたな!」
「お前を待ってたんだ!」
「ほうほう、どうしたどうした」
僕がコゲタとビータを従えてやって来ると、職人たちの前には大柄な野鳥が何羽も転がっていた。
「見ての通り、鳥だ」
「ふむふむ」
「俺達が食べるには量が多くないから、食いでがなくてな。どうしたもんかと思っていたんだ。だが、お前の油で揚げてくれれば腹に溜まるようになる」
「頼むぞナザル」
「よしきた。唐揚げの練習と洒落込もう……。おっと、じゃあ僕からも頼みがあるんだが」
「なんだ?」
僕はビータを指し示した。
「あの子が冒険者に憧れて、色々体験中なんだ。最初は鼻っ柱を折るつもりだったんだが、一生懸命に仕事に励むのでちょっと情が湧いてきてね」
「分かる」
「子供が懸命に仕事してるの見ると涙腺緩むよな」
職人たちと大いに盛り上がった。
それはそれとして、やはりビータの美貌は通用するらしく、職人たちはすぐにメロメロになった。
彼らに薪割りレクチャーは任せておけばいいだろう……。
「ビータ、力加減なんかを学ぶんだぞ。力任せだと、肩や腰を壊すからな」
「は、はい! ナザルさんはどうするんですか」
「鳥の素揚げを作る」
「鳥の……素揚げ!?」
楽しみにしているがいい。
今日、ビータが頑張って割った薪が、いつか唐揚げのための火力に変わるかも知れない。
努力は明日に通じているのだ……。
なお、この伐採所では作った薪は放置せず、乾燥させるための蔵に放り込んで熱したりするからすぐに使えるようになるぞ。
他の職人たちと、鳥の羽をむしっていく。
溜まった羽の中に、コゲタが入ってきた。
「わふー」
羽を舞い上げて遊んでいる。
「仕方ねえなあコボルドは」
「犬だもんなあ」
職人たちが大目に見てくれていて助かる。
さて、むしり終わった鳥は腹を裂いて内蔵を取り出し、内臓は内臓で鉄板の上に油を引いて炒める。
内臓の焼き鳥だ。
で、鳥肉は一口サイズにカットし、僕が作り出した油を熱して投じる。
鳥皮は油をたっぷり含んでいるので、これはこれで別個に炒める。
美味しそうな匂いがしてきた。
「おお……昼間だってのに酒が進みそうな香りだ……」
「もう仕事なんかしてられねえ……!!」
「うおおおお!! 俺は飲むぞーっ!!」
職人たちがみんな集まってきてしまった。
ビータのチャームよりも、酒とつまみの誘惑が勝つか!
まだまだ発展途上のギフトだな。
揚げ物の出来上がるタイミングを職人に教えた後、僕は外に様子を見に行った。
ビータは薪の束を幾つか割った後、くたくたになって倒れていた。
「やあ、お疲れ。どうだ、薪割りは」
「つ、つらいです……! 腕や肩や腰がパンパンで、もう動けません……」
「そうだろうそうだろう。君はあれだ。冒険者になるという憧れはあったが、体のほうがまるでできちゃいなかった。冒険者は体が資本だ。夢を語るなら、まずは基礎的な体力をつけ、筋肉を鍛えるべきだな。育ちかけのチャームのギフトだけじゃ、世の中は渡っていけないぞ」
「そのギフトってなんだかわからないですけど、はい……。ぼくは、非力です……」
しょんぼりしている。
若者に挫折はつきものなのだ。
そんな力尽きた彼の口に、揚げたてをちょっと冷ました鳥の素揚げを放り込んでやった。
「ふわ!? あつつ……んんん、おいひい!」
「君が割った薪は、いつかこの美味い揚げ物を作る火力になるかも知れないぞ。頑張れ少年!」
「ふぁ、ふぁい!」
こうして、ビータは一旦冒険者を諦めてくれたらしい。
次に冒険者を目指す時、彼はきっとムキムキのマッチョになっていることだろう。
見る者をチャームで魅了するムキムキマッチョの冒険者。
それならば全然、やっていけると思うよ……!
なお、鳥の素揚げや内臓を使った焼鳥は職人たちに大変好評だった。
塩とハーブを多めに使い、ちょっとでも酒が進むようにしたのは正解だったな。
なお、これを続けると痛風や高血圧になるから気をつけるんだぞ職人たちよ。
依頼を終えた僕は、騎士ボータブルに会った。
「どうだったナザル。ビータは冒険者になれそうか」
「今のままじゃ無理だね。筋力が足りないし、背丈だって足りない。そしてもっと世の中のことを知るべきだ」
「やっぱりな。そうかそうか。聞いたかビータ。お前はまだ色々足りないんだぞ」
「は、はい! ぼく、頑張って足りないものを身に着けて、またナザルさんと冒険します!」
「……ナザルよ。なんだか弟の目がキラキラ輝いているんだが……。諦めさせてくれるのでは無かったのか……?」
「現時点では諦めたさ。だけどまあ、夢ってのは一度折れたくらいでは全然その輝きを失わないものだったりしますんで」
「ぐう……! そ、そうか……!」
ボータブルがフクザツな顔になった。
弟が冒険者というヤクザな職業を諦めていないこと、そして、弟がそれを目指して努力する夢を見つけたということ。
良くないことと良いことが一度に起こってるからね。
「世話になった、ナザルよ。あとは我が家の問題だ。冒険者になるために努力するくらいなら、騎士を目指させた方が建設的という気もする……」
なんかぶつぶつ言いながら、ボータブルとビータが去っていった。
最後にあの美少年は、僕に向けてペコリと一礼したのだった。
僕にギフトがなければ、キュンと来ているところだったな。
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