105・求めよ、精のつく食材 第321話 牡蠣の規制を取っ払え作戦
結局米を炊き、そこにホワイトソースとチーズを流し込み、温め直したカキフライを一緒にして……。
「カキフライドリアが誕生してしまったな……。カキフライが温め直しなところがジャンクでとてもいい」
残った量がさほど多くなかったので、少量のカキフライとドリアを食うことになる。
いやあ美味い美味い。
濃厚で、ガツンと胃袋に来る。
サルシュもツインも、物も言わずにパクパクと食べた。
カルボナーラの時もだけど、濃厚クリームとチーズはヤバいな!
今回はそれに牡蠣も乗っているので、栄養満点だ。
大変お腹が膨れたのだった。
僕らは大満足。
食後の冷やしたワインをギルボウが出してくれたので、これを冷えた水で割って飲む。
さっぱりする~。
個人的に、ワインは水割りだな。
前世では、ワインを別の割材でカクテルにしてた気もする。
酒は誰が詳しいかなあ。
スイーツしか作らない冒険者ギルド酒場のマスター、何気に詳しそうだな……。
今度美味しいものを食べさせて、カクテルのメニューを聞き出そう。
「……あれ? 今ギルボウ、無からドリア作ってなかった?」
「カルボナーラに使っていたソース、米にも合うと思っていたんだが、ちょうどよかったんでカキフライとも組み合わせてみたんだ。目論見通りだったな」
「お前、転生してるんじゃないのか……? チートだろ」
この世界で他人に向かってチートと告げるのは、ギルボウ以外にいない。
リップルよりやばいよこの男。
存在する料理の組み合わせを即座に発想し、行動に移す。
そして生み出される数々の見たことある料理!
その全てが美味い。
「ああ……美味しかった……。ナザルさん、あの、これが一般に出回らず、ご禁制のままなのは良くないですよ。世界の損失ですよ……!!」
ツインが脱力から一転、拳を握りしめて主張してくる。
「やっぱり?」
「間違いありません!! 陛下に直談判しましょう!!」
過激だなー!
ここは殿下を通して、陛下まで牡蠣規制の解除を直訴してみるか。
「うんうん、ワタクシもそう思います。味覚が人間とは違うリザードマンの我々ですが、素晴らしい風味でした。飲み込むならドリアというものにした方が喉越しが良いと思いました」
「ああ、唾液をがんがん分泌する種族じゃない場合は、ドリアの方がいいんだ。なるほど、ギルボウ慧眼」
「偶然だ」
おっ、ちょっと照れてる。
ということで、直訴大作戦を行うことにしたのだった。
まあ、牡蠣が人気になりすぎて乱獲されても困るけどね。
牡蠣を獲って、殿下のお屋敷に運び込んだ。
「殿下。カキフライです」
「今日は前置きが無いな!? おほー! 素晴らしいきつね色の揚げ物! なにっ、牡蠣!? 禁制ではなかったか? 父上が民の健康のために禁じたと聞いているが……」
「フライは禁止されてないんですよ」
「法の抜け道をついたな!?」
「そしてこれがカキフライを乗せて食べるためのドリアです」
「ぬああああなんたることだああああ」
殿下は落ちた!
奥方とお嬢さんと三人で、猛烈な勢いでドリアオンザカキフライを食べている。
「このカキフライというの、なんだか不思議ね。苦みがあってこれだけだと微妙……ううん、サクサクの衣とサワーなソースは好きかも?」
お嬢さんは年若いが、サワーソースがあればカキフライもいけるようだ。
牡蠣は大人向けな美食になりそうだな。
「殿下。このように牡蠣は美味しいのです」
「うむ、美味い。美味かった……。そしてこの米をカルボナーラのようなクリームで包んだものはなんだ?」
「ギルボウがついでで作ったドリアです」
「こんな美味なものをついでで作るな!! いや、褒めて遣わす。なるほど……。つまりそなたは、陛下に牡蠣禁制の法を取りやめさせるよう、私から進言してほしいのだな?」
「その通りです。生は危ないですが、安全にする方法もあります。僕がそれを伝授いたしましょう。あと、牡蠣は国が管理するのがよろしい」
「なるほど……。色々考えていそうだな。良かろう。陛下に取りつごう。ついでに、陛下の分のカキフライとドリアも作っておくようにな」
「はっ!」
サクサクと話が進んだ。
カキフライだけに。
陛下との会見は王家の食堂で行われた。
「むおおおおおお」
「うまーい!!」
「あら美味しい」
陛下と王子とお后が、もりもりとカキフライとドリアを食べる。
普通に、王宮で出る最高級の料理より美味いからな……。
人間の快楽中枢をぶっ叩いてくるジャンクな旨味の塊だ。
「陛下! 牡蠣の禁制を解くご許可を!!」
「むうーっ!!」
牡蠣を食べ終わった陛下が唸った。
そして、
「そもそもこの法は、父上が決められたもの。時代は変わる。時代が変われば法も変わるというものだ。ナザルよ。そなたは牡蠣で食中毒を発生させづらくする方法を知っているそうだな?」
「はい。牡蠣で腹を壊すのは、あまりに栄養が多すぎて食べすぎると溢れてしまうのと、牡蠣は水の中に溶け込んでいる栄養を吸っているため、人間にとっては毒のようなものも取り込んだりしているからです」
「ほうほう! ということはつまり……?」
「生で食べる牡蠣はしばらく絶食させ、綺麗な潮水の中で毒を吐き出させれば食中毒を起こす危険が減るでしょう」
「なるほどなあ……。だが、そうやって痩せた牡蠣よりは、太った採れたての方が旨かろう?」
「美味いでしょう。そのために食べてはいけない加熱用を生食する者も出るでしょう。ですから……牡蠣は王国が管理するのです……! あるいは、これを担当する貴族を選出して厳密に管理させる……」
「なるほど! 市場から切り離してしまうのだな。それはいいな。では、そなたとこの美味い料理に免じて、牡蠣を禁じる法を解くことを約束しよう! まあ、そなたのやり方では、牡蠣はなかなかの高級料理になると思うが……」
「ハレの場で少しだけ食べられる美食、というのもあっていいと思いますよ。それに少しだけだからこそ体にいいわけで」
「道理だな!」
わはは、と笑う陛下なのだった。
こうして、牡蠣は国の管理のもと、市場に少しずつ出回り始める。




