第309話 コゲタへの求婚者現る!
試験に落ちたコゲタ。
その日の夜まではしょんぼりしていたが、美味しい晩ごはんを食べたらすぐにご機嫌になったのだった。
やはりご飯は嫌なことを忘れさせてくれるな。
酒は嫌なことを増幅したりもすると聞く。
基本はカロリーによって解消をすべき。
こうして明るい感じになったコゲタは、起きてきたカルと遊んだりなどしていた。
カルも手を伸ばしたりできるようになってきたからな。
指先でコゲタをぺたっと触ると、満足するらしくニヤッと笑う。
我が子かわいい。
コゲタもかわいい。
この空間には癒やししか無い。
素晴らしい夜を過ぎて、寝て、朝。
真夜中にリップルが自動授乳魔法でごそごそ起きて、カルにおっぱいをあげていたのは何となく確認した。
あまりにあの魔法が盤石すぎるので、こちらも安心して寝る他無いのだ!
そして朝。
朝担当のお手伝いさんが来たところで、朝食を作ってもらう。
いやあ、我ながらいい身分だ。
僕もリップルも、一切の家事をやらないからね!
コゲタのお世話をしてたものだが、今はコゲタも自分でできる。
なので、僕が専任なのはカルのおしめ交換くらいである。
「今日もいっぱい出たなあ」
「うばあー」
「日に日にむちむちして来ている。カルはきっとでかくなるぞ」
「んぶー」
本日はコゲタはお休み。
家でのんびりしたり、ちょっとお散歩に行ったりするくらい。
リップルが一人で冒険者ギルドに出かけていった。
母親になっても大変自由な人物なのだ。
魔法でその辺りはカバーできるもんな……。
「ご主人! おさんぽいこ!」
「よし、行くかー」
コゲタに誘われた僕は、カルをベビーカーに乗せて散歩する。
いい陽気だ。
そろそろ春ではないか。
カルはベビーカーの上で、左右にゆらゆら動いている。
これは寝返りの準備をしているのだ。
成長が早いカルのこと。
あと一ヶ月以内に寝返りの能力を身につけると睨んでいるぞ。
「ご主人とのおさんぽ、ひさしぶりねー」
「そっか、そう言えば! コゲタはここんところ、ずっと冒険者で大忙しだったもんなあ」
「うん! いっぱいしごとしたー。テストおわったら、みんなくたくた!」
「だろうなあ。若さに任せて張り切ってても、体力ってのはあるからねえ」
僕も肉体年齢だけなら若いのだが、精神が年寄りだからな……。
貴族街を抜けて、のんびりと商業地区に向かう。
おお、懐かしきかつての我が家が見えてきた。
一階が知識神神殿になっている、例の宿屋だ。
「あらー! コゲちゃんじゃないかい!」
おかみさんにすぐ発見された。
「こんにちはおかみさーん!」
コゲタがトテトテーッと走っていって、おかみさんがキャッチした。
二人であはは、うふふ、と抱き合ってぐるぐる回っている。
仲良しだなあ。
「おかみさん、神殿は順調?」
「ああ、順調さね。毎日信者の人が来てお祈りしてるし、お布施をしてってるよ。こちらも毎月それなりのお金が入ってきて助かるよ」
「やっぱり固定の家賃はいいよなあ。もうここ、宿というか賃貸マンションになってるでしょ」
「その方が安定してるからねえ」
知識神神殿と、これを監視する騎士団の分署がある宿だ。
というかそろそろ雑居ビルと言っていいんじゃないか?
さらに、飼い主氏がアララちゃんと一緒に住んでおり、ここはツーテイカーの大使館みたいになっている。
雑居ビルである。
「ああそうだ! ハムソンが大きくなってね! アララにプロポーズを!」
「なんだって!」
「あらー!」
物凄いニュースに沸き立つ僕とコゲタなのだった。
そして、この声でパッと目覚めたカル。
初めて見る宿屋の女将さんに、「おー」とか言いながら興味津々。
「ナザルの子どもかい? かわいいもんだねー! カルボナル? 立派な名前をもらったじゃないかい! きっと大物になるねー。ほら、コーチョコチョ」
「キャッキャッ」
さすがおかみさん、赤ちゃんの扱いを分かっている。
「それで、アララちゃんとハムソンの関係は?」
「ハムソンはまだまだ子供っぽいからと振られたねえ」
「あー」
「あー」
僕とコゲタで一緒に笑うしかなくなってしまうのだった。
日頃の行いだ。
ハムソンの成長に期待しよう。
なお、ハムソンはそれ以来体を鍛えているそうなんだが……。
多分成長ってそっち方面じゃない気がする。
「どれ、ではでは知識神の神殿に挨拶に……」
やって来た。
ちょこちょこ装飾物が増えて、より神殿らしくなっている。
外側でも石柱に見えるオブジェがあって、ここだけ雑居ビルの中で異彩を放っているな。
「やや! ナザルさん……じゃなかった美食伯ようこそお越しくださいました」
「他に人がいない時はさん付けでいいよ」
「ああ、ではお言葉に甘えてナザルさん」
神官氏は変わりないようだった。
「どうぞ中へ。粗茶ですが召し上がっていってください」
「やや、ありがたい」
招かれる僕とコゲタ。
すると、神殿の中には腕立てをしているハムソンの他に、なんかコゲタくらいのサイズの人影があるではないか。
あの背中は……。
こんがり焼けたパンみたいな色の毛並みに、ぴょんと立った耳。
柴犬のコボルドだ……!
そのコボルドがハッとして振り返る。
「よきかおりがしたとおもったら……。おお、ちしきしんのみちびき!」
かわいい声だが、かっこいいセリフを紡ぎ、コボルドはストンと床に降り立った。
そしてこっちめがけてパタパタ走ってくる。
「うつくしいひと! どうかけっこんしてください!!」
「えっ!?」
柴犬は、なんとコゲタの手をぎゅっと握ったのだった。
な、な、なんだとーっ!!
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