第300話 例の会場でお披露目しているのか!!
僕とリップルの結婚式場だが、あれほどアホみたいにでかい建造物をつくったことで、王家はいっとき大変な借金を背負ってしまったらしい。
だが、その後にハンバーグカレーが大ヒット。
ものすごい勢いで債務を消化して行っているそうだ。
恐らく、ソロス陛下の治世の間に完済するだろう。
ここで陛下は新たな一手を打ち出した。
それは、式場の解放である。
アホみたいにデカくて広い式場を、旅人のための街として解放したのだ。
壁と屋根があり、神々を象ったステンドグラスから外の光が降り注ぐ式場。
そこはイベントステージみたいな形になる。
で、式場周辺の、壁に囲まれた辺りがアーランの第二都市部になるわけだ。
外国人を中心とした、新しい町並みが生まれつつある。
まあ、今はバラックがとても多いのだが。
金を稼いだやつから、徐々にちゃんとした家を建てつつある。
建材は近くの森から取ってくるので、木々が減ってハゲ山になっていくのが欠点だな。
そんなアーラン第二都市を見にやってきた僕とリップルとコゲタとポーターなのだが……。
なんだか中心部が騒がしいではないか。
なんだなんだ。
イベントステージで何かが起きているようだ。
自慢ではないが、僕は野次馬精神旺盛である。
物珍しそうなことには顔を突っ込む主義だ。
だから今まで、妙な冒険をいくつも繰り返してきたのだが……。
「ブレッドのこえする!」
コゲタが耳をピクピクさせてから、パッと振り返った。
背丈の近いブレッドに親近感を感じていたのかも知れない。
ポーターも「ぶるるー!」といななく。
しばらく馬小屋の友だったもんな。
彼らが言うなら間違いないだろう。
最近姿を見なくなったブレッドが、ここにいるのだ!
そして歌っている!
嫌な予感がするー!
「ははーん、これは私、分かってしまったぞ。私の脳が推理してしまった」
「や、やめろリップルー! なんとなく分かっちゃいるけど、こんな大勢の中であれが披露されているかと思うと……!!」
「はっはっは、まあ行ってみようじゃないか。そらそら、旦那様としては身重の妻を庇いながら歩いてもらわないと」
「くそー、自らを人質に……。いや、興味はあるんだけど」
「たのしみねー!」
「ぶるるー!」
というわけで、僕らはイベントステージに向かったのだった。
そこには第二都市の人々が大勢詰めかけており、大盛りあがりだった。
彼らの間から漏れ聞こえる歌声は、間違いなくブレッド!!
「その時~! 油使い一歩もひるまず~! それこそが真実の愛~!!」
「うおーっ、脚色されてる!! 物凄く脚色されてる!!」
どうも、僕とリップルの冒険を描いた辺りの話をしているようなのだが、一緒に冒険してて愛なんてものは全く無かった気がするんだがなあ!
むしろ今現在結婚しており、彼女のお腹に命が宿っているのがものすごい奇跡なのだ。
「まあ、愛を歌う内容は普遍的だからね。女性には大いに受けるものさ。私は別にどうでもいいけど……」
リップルもスンッとしている。
彼女も大概枯れてるからなあ。
余生を送るつもりでいたら世界の状況に流され、僕と結婚し、なんと命を授かってしまったという。
うーむ!
あの酒の勢いと、思い出話からの盛り上がりは危険だな。
封印だ封印。
というか、一発で命中するんじゃない。
どれだけ相性が良かったんだ。
「ナザル悠然と指をさし~! 大地の獣は思わずひるみ、砂漠の民を救わん~!!」
うおおおおおっと男衆が盛り上がった。
これは僕が英雄っぽい冒険をしているところだな。
だがベヒーモスと戦ったことは一度も無かったはずだが……?
なんという脚色か。
なお、コゲタがキャッキャとはしゃいでぴょんぴょん跳ねているので、ブレッドのことは許す。
ポーターもご機嫌だな。
馬は歌がわかるらしいしなあ。
実に三十分に渡る、『油使いを称える歌』が終わった。
おひねりが飛ぶ飛ぶ。
みんな決して豊かではないだろうが、それでもおひねりを投げたくなるほど曲は素晴らしかったのだ。
これは大いに娯楽として広まることだろう。
いやあ、実に困る!
こんな脚色された情報が僕の真実だと勘違いされては堪らんぞ。
だが……。
人の口を塞ぐことはできないからなあ……。
既に帰っていく子どもたちが、油使いを称える歌のムササビ退治の歌を口ずさんでいる。
ちょこちょこ、覚えやすいフレーズの曲を混ぜてきてるんだよな。
やり手だなブレッド。
ブレッドは大量のおひねりを風呂敷みたいなもので包み、担いでいる。
これからこれを宝石に変えるのだろう。
そこで僕が一家揃ってやって来ていることに気づき、サテュロスは凄くいい笑顔になった。
「おおーっ! ナザルー! 我が友よー!!」
「まあ友ということにしてもいいが、とんでもないボリュームの曲が完成してしまったな……。おつかれ」
「いやいや、何もかもナザルのおかげ。みどもはこれから十年は食べていける!」
「そんなに!? いや、そんなにだろうな」
娯楽の少ない世界だ。
そこに、現代の伝説的人物を歌った叙事詩は大人気になることだろう。
今後はどこに行っても自分の歌に出会いそうだ。
「この歌を元にした劇も上演されるからね。そうしたらあんたのところにもマージンが入ると思うよ!」
「そうかあ、それならいいかあ……」
お金になるというなら認めてもいいかなと思ってしまう僕なのだった。
こうして……。
僕は伝説になってしまった。
僕を称える脚色された歌は、瞬く間にノーザンス大陸全土に広がっていくのである。
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