第290話 国王、ぶっ倒れる
国王陛下がぶっ倒れた。
寝込んでしまい、これは国政に支障が出る。
それにそろそろ判断も怪しくなってきていたということで、王位継承が行われたのだった。
なんか陛下も「余はもうだめだ」とか気弱な事を言っているので、第一王子のソロス殿下があとを継ぐことに異論はないらしい。
ソロス殿下、嫉妬深いが基本的には帝王学をきちんと身につけたお人だからね。
「陛下が倒れたそうじゃないか。大変なことになっているね」
リップルもギルドで噂を聞いたようで、夕食の席で話題になった。
「なぜ倒れたんだろう。いや、人間では七十歳はもういい年齢だろう。陛下はむしろあのお年までよく頑張ったほうだ」
うんうん、と一人納得するリップルなのだった。
「おうさまたいへんなの?」
「そうだぞコゲタ。王様をやるのはとっても大変なんだ。だから王子が次の王様になるわけだな。若くて元気な王様が出てくるぞ」
「ほえー」
コゲタはポカーンとして感心した後、お皿に盛られた料理をぱくぱく食べた。
うんうん、よく食べるのはいいことだ。
そしてリップルは無自覚だが、国王陛下の在位にとどめを刺したのは僕らであろう。
つい昨日、使者がリップル妊娠! との報を王宮に持ち帰ってすぐに国王陛下がぶっ倒れたのだった。
どこから漏れたのか、この国の一大事を告げる報はアーラン中を駆け抜けた。
いやあ、本当に今が平和な時代で良かったね。
そうでなければ、他の国が侵攻してきたかも知れない。
だが、いつそういう事態が起きるとも知れない。
アーランは早急に政治の空白を解消すべく、王位継承を決めたのだった。
まあ、前々からそういうつもりではあったのだが、思ったよりも陛下が元気なのでずっと棚上げになっていたのだそうだ。
その時間を僕とリップルが加速させた……!
いや、加速しちゃいかんのだが。
ということで、王位継承の儀が行われることになった。
各国の首脳を招いての儀式は3ヶ月後だが、形式的にでも王位を継承しておく実務は来週。
これには国家の重鎮がみんな参加するのではないか。
そんな事を考えながら、日々が過ぎた。
僕はナザル農園の主なので、ちょこちょこ遺跡の中の農園に出かけていって成果を調べる。
以前僕の貞操を狙ってきていた女子たちは、
「側女でもいいんですけど!」「二人目はいかがですか?」
とかたくましい。
いらない!
いらないからね!!
作物の育成状況は順調。
なにせ、遺跡はとんでもない栽培チート環境だ。
この場所では土を休ませる必要などなく、連作障害も起きない。
なのでガンガンに作物が育てられている。
一応、大豆や一部の作物のみ育成ができないということで、そういったものは輸入に頼ることになる。
そして輸入せねばならない作物がある場合、対抗としてこちらでしか育てられな作物などを輸出してバランスを取る必要がだな……!
ということで、僕はこの国で大変重要な役割を受け持っていることになる。
美食アンバサダーなどという謎の役職を持っているが、遺跡内の特殊農産物を受け持つ大規模農場の主であり、それらの輸出と国内流通を管理する大臣みたいな役職もやっているのだ……。
完全に国のシステムに組み込まれてしまったな?
「ではナザル様、本日は泊まっていかれては……」
「ちゃんと日帰りします!! 基本的に僕は管理のためにこっちに来てるんだからね」
ということで、きちんとその日の内に帰る。
一日に一箇所チェックが限界だな……。
本当なら泊まり込みたいところだが、危険過ぎる、僕の貞操が。
「妻が大事な時期なので帰りますね……」
職人たちが見送ってくれた。
「お疲れ様です。そのうち、リップル様と一緒にいらっしゃってください!」
「その手はありだなあ」
彼らとしては僕とリップルにいい印象を持ってもらうことで、扱いを良くしてもらう……みたいなところを期待しているのかも知れないが。
遺跡の中は環境も安定しているので、子どもが生まれたら連れてくるのもよかろうう。
家に戻ると既にリップルがおり、何か考え込んでいる風だった。
「どうしたどうした」
「これ見てくれナザル。招待状だ」
「招待状と言うと……王位継承の儀の?」
「そうなる。身内の儀式ですからカジュアルな格好でどうぞと書いてあるが……。私が推理するにこれは罠だな」
「間違いない、罠だ。王家の儀式にカジュアルな格好で行くバカはいないからね」
急いでそれっぽい服を仕立てねばということになった。
くそー、こういう大きな会に誘われることが増えたのだが、お陰で出費が増える!
貴族というのは意外とお金がなく、日々のやりくりに汲々としているのだと聞いたことがある。
こういうことだったんだな……。
なお、僕は王国にとって大いなる利益をもたらす作物を一手に握っているからな。
金はあるのだ……。
だが金があるからこそできる金遣いに慣れてしまってはならない。
絶対に身を滅ぼす。
「可能な限り予算控えめで礼服を用意しよう。なんなら貴族からレンタルするのでもいいから」
「そうしようか」
そういうことになったのだった。
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