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俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~  作者: あけちともあき
95・少年とお姉さん

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第287話 瓦礫の中

 一瞬だった。

 それほど大きな村じゃなかったけど、俺にとっては故郷だったそこは、一瞬で遺跡の崩落に飲み込まれてしまったのだ。


 なんだよこれは!

 瓦礫の中を滑り落ちながら、俺は毒づいた。

 俺は少しだけ、油を生み出して使える。


 だからこれで瓦礫の間をぬるっと抜けて生き残ることができた。

 村のみんなは全滅だろう。


 親父も、おふくろもみんな死んだ。

 友達も村長も死んだだろう。


 だって、瓦礫は深い深い遺跡の中に、どんどんと流れ込んでいくのだ。

 何度も俺を押しつぶそうと、大きな岩の塊が襲ってきた。


 俺は油の力を使って、隙間をヌルヌルと抜ける。

 なんで俺にこんな力が宿ったのかは分からない。

 だけど、このお陰で生き延びられている。


「クソッ、クソックソッ! だけどこれじゃあ、時間の問題だ! くそっ、死にたくない、死にたくない、死にたくない!!」


 俺は叫びながら、必死に瓦礫に流されながらその中を泳ぎ続けた。

 ついに、遺跡の底に到着する。

 瓦礫が叩きつけられ、砕け散った。


 俺は精一杯油を呼び出して、瓦礫をたくさん取り込んでクッションにした。


「うぐっ……めまいがする……」


 力を使いすぎたみたいだ。

 どうやらこの力は、やりすぎると体力が削れてしまうらしい。


 危険だ。

 ここから脱出しないといけないのに、力を使い果たすわけにはいかない。


「ううう……。なんだか力を使うほど、気が遠くなる気がする……」


 俺の意識が薄くなっていくような……。

 ふむ……なんとなく要領を掴んできた。

 油は回収することで体力に戻るらしい。

 なんだ、今の思考は。


 俺じゃない誰かが俺の中にいるみたいだ。

 いやいや、僕は君だ。

 同じ人間だ。

 どうやら日本で死んだと思ったら、僕は君として転生していたらしい。


 俺が転生?

 俺がお前で、お前は俺で……。

 油を操る力を限界まで使ったことで、僕の記憶が蘇ってきたようだね。


 ここは若さに任せてずんずん進んでも仕方ない。

 年の功に任せて欲しいな。


 俺の中で、今の俺と年を取ったやつが主導権を争っている。

 だけど、なんとなく分かった。

 どっちも俺なんだ。


 そんな訳が分からないことを俺は否定したいけど、僕と言っているやつは受け入れている。

 うう、だんだん混ざり合っていく気がする……。


 俺が俺じゃなくなる……。

 いや、僕は僕だろう。

 新たな意識体として覚醒するだろうが、もともと君の中にあったものが出てきただけだ。


 まずはこんな肉体の主導権争いなどやめて、遺跡の脱出に尽力しよう。


 難しい言い方をするやつだ。

 でも、なぜか意味がわかる。

 俺は文字すら読めないのに、なんでそんな難しいことが分かるようになってるんだ。


「まあまあ。ここはこの油使いの力を用いて脱出しようじゃないか。どうやらこれは滑るだけじゃない。瓦礫をまとめて、僕だけが使える足場にして歩くこともできそうだ。量は限られているし、体力だって消費する。だけどいつかはお腹だって減るし、眠くなるだろう? 迅速に行こう」


 俺の体が動き出した。

 崩れやすい瓦礫を一塊にし、それを足場にポヨン、と跳ねる。

 一気に数メートル駆け上がった。

 

 メートル?

 そういう単位だ。感覚的にも分かるだろ。

 分かる。分かってきた。


 僕はだんだん、前世の記憶と今の自分で混ざり合い始めている。

 そうするたびに、力を使いこなせるようになっていく。


 瓦礫と土を混ぜてクッションにし、またその上から上へと跳ぶ。

 跳ぶと同時に油を回収して、次の足場を用意する。


 驚くような速度で、僕は崩落した遺跡を駆け上がっていった。

 火事場の馬鹿力というやつかも知れない。


 一時間と少しで、僕は遺跡の外に飛び出していたのだった。

 そこには、かつてあった村の姿はない。


 僕の中の少年の部分が、ちくちくと傷んだ。

 感傷だ。


 この事故で全てを失った僕は、これから一人で生きていかねばならない。

 だが、どうやら僕はツイていたらしい。

 途中で隊商が通りかかった。


「こんにちはー。地元の村が遺跡に飲まれちゃって」


「なんだって。ほんとか! うちは飯とかあんま余裕が無いが、何か仕事をしてくれたら連れてってやるぞ」


「本当!? じゃあお願いします。夜の見張りとかやるんで」


「おお、頼むぞ坊主! いやあ、しかし田舎のガキだってのに礼儀ができているなあ。全然物怖じしないし」


「生き残るために必死ですもん! 本当に助かりました。恩に着ます!」


 生前の営業スキルが生きるな。

 営業スキルってなんだ?

 まあいいか。


 僕は隊商の不寝番役として加えてもらった。

 もらえる食事は、硬いパンとチーズ、それと水くらいだが十分だった。

 どうにか生きていける!


 夜は起きて見張りをし、昼は寝て運んでもらった。

 そんな生活を二週間もやった。


 二週間?

 十四日のことだ。

 少年の僕が知っている暦とは違う。

 それは村でだけ使われていた暦だ。


 記憶の中の暦は、村のそれよりもずっと合理的に思えた。

 そして隊商は到着した。


 それは、見たこともないほど大きな遺跡だった。

 巨大な口が開いており、人々が行き来している。


 武装をした男女がいる。

 あれはなんだ?

 村に以前来た吟遊詩人が歌う、冒険者というやつか。


「坊主、これでお別れだな! 不寝番助かったぜ! 坊主が俺達を起こしてくれたりしたから、獣に荷物を奪われずに済んだ。もっとでかくなったら、正式なメンバーとして雇ってやるよ」


「ありがとうございます! 縁があったらぜひ! このご恩は忘れません!」


「本当に、ガキの癖に人間ができたやつだよなあ……じゃあな! ええと、ええと、なんだっけ」


「ナザルです!」


 こうして僕は、遺跡の国アーランへとやって来たのだ。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
なんか物語の終盤が近づいている予感!
これって、ナザルが「覚醒」したころ?
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