第285話 式が始まる!
「きちんと新郎新婦の部屋が分かれているのな。そしてコゲタは花を撒くお仕事だな」
「うん!」
天使風のフリフリ衣装なコゲタが元気よく頷く。
手には籠をぶら下げており、ここに花びらがたくさん入っているのだ。
「アララもおてつだいだよ!」
アララちゃんはコゲタとちょっと違う感じの天使風衣装。
今日は助っ人として花道を作る要員なのだ!
「いっしょにがんばろー!」
「がんばろー!!」
コボルドの二人がえいえいおー、と気合を入れている。
かわいいかわいい。
アララちゃんも女子だったんだな。
で、ハムソンはオスと……。
ふーむ、年頃の女子の近くにオスがいるのはどうなんだね……?
いや、いかんいかん、いたずらにコゲタから選択肢を奪ってはならないな……。
僕が懊悩していると、二人が「「いってきまーす!!」」と元気に出かけていった。
いつもコボルドはハツラツとしていて、こちらの悩みなんか吹き飛ばしてくれるなあ。
さて、僕もアップしておくとしよう。
コゲタたちが出ていって、会場で拍手が起こった。
花を撒いているのが可愛いらしく、女性たちの「かわいい」「かわいい」「うちに持って帰りたい」と大好評な声がする。
いかんぞ、持って帰らせないぞ。
少ししてから、新郎と新婦の入場となった。
僕らはベールで姿を隠すようにして移動するのだが……。
これは太陽と月が出会う的なサムシングを意味しているのだとか?
良く分からない。
とにかく、左右から僕らが出てきたので、会場はワーッと盛り上がった。
楽団みたいなのまで来ていて、ドンジャンドンジャンと音楽なのか騒音なのか分からない音を奏でている。
オーケストラみたいな音楽はまだ発展してないんだよなあ、この世界。
非常にいびつな文化発展をしている気がするぞ!
美食だけなら現代日本に近づいているし。
ということで、中央の祭壇に当たる場所で、至高神の最高司祭が僕らを迎えた。
「夜のベールを外して下さい」
この人、見たことがあるな。
確か、リザードマンのサルシュの上司だったはずだ。
彼が諸国漫遊の旅みたいなのから戻ってきたので、副官であったサルシュが暇になって冒険者になった的な。
「各国から集まった来賓の皆様に、アーランに昇った太陽と月をご覧いただきましょう」
ということで、ベールが引かれ……僕らの姿があらわになった!!
赤い鮮やかなウェディングドレスのリップルにはあちこちから感嘆が漏れ……。
ピッカーッ!!と光り輝く僕のスーツには、「ウグワーッ!!」「眩しい!」「正視できん!」「新手の魔法攻撃か!?」とパニックが起きかけた。
ほらあ!
やりすぎだってこれ!!
その後、僕を直視しないように会場内に通達が出た。
新郎を見てはいけない結婚式ってなんだよ。
なお、最高司祭は一人だけサングラスみたいなものを装着している。
涼しい顔で儀式を進める辺り、やり手だな。
「では二人とも、六方の神々へ誓いの言葉を」
ここは暗記してきた。
「私、夫たるナザルは、六神の前で誓う。この身、天なる神に捧ぐその時まで妻リップルを愛することを」
「私、妻たるリップルは、六神の前で誓う。この身、地なる神に捧ぐその時まで夫ナザルを愛することを」
「神よ、ここに新たな夫婦が誕生しました。どうか祝福を……」
最高司祭が両手を広げると、天井に光が生まれた。
どよめく式場。
驚くよなあ。
これ、本当に種も仕掛けもないんだもの。
アーランにとって特別であるこの結婚式のため、最高司祭の祈りに応じて太陽神たる至高神がちょっと力を貸してくれているわけだ。
つまりあれは神の力の一端だな。
本当ならありがたいものなんだが、僕は割とホイホイ知識神の力を借りたりしていたから、すっかり慣れてしまった……。
光は司祭の前に降りてきて、彼の手によって僕らへ差し出される。
「お二人、この光はこれからの未来を指し示す希望の輝きです。光はお二人の中へ」
その言葉のとおり、光が入ってきた。
うおっ、あったかい。
「私、こんな儀式知らないんだけど」
リップルがぶつぶつ言ってる。
司祭が小声で、「今回のために考えられた新しい伝統です。これは流行る」とか囁いた。
なんだってー!!
国も至高神神殿も、至高神もグルか!
だが、会場は大盛りあがりだ。
とにかくピカピカと輝くから、遠くでこっちがよく見えてない一般人からも、なんか凄いことが起きていると分かるらしい。
この式を考えた人、エンタメというものが分かっている。
そこでまた、騒音とも音楽とも取れない音が鳴り響いた。
式が終わったっぽい。
会場はまたまた大いに盛り上がった。
なぜ盛り上がるかと言うと、式の後で披露宴があり、美味いものが食えるからである。
つまり、こちらが本番なのだ!
「うーむ、儀式の内容をもっと練り込んでおかねばなりませんね」
至高神の最高司祭がぶつぶつ言っているのだった。
なんたる生臭神官か。
僕は彼のサングラスをパッと引っ剥がしてやった。
僕を直視した彼は、「ウグワーッ!! 目が! 目がぁーっ!!」とのたうち回るのだった。
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