第276話 出し物はやっぱりこれだろう
「結婚式ではカレーを出す。カレーライスだ!!」
「お前、いきなり結婚することになったかと思ったらもう式の料理の話をしてるのか」
ギルボウが呆れている。
ここはいつもの場所、彼の店だ。
そしてこの場には、僕とギルボウとシャザクと飼い主氏がいる。
「いいんじゃないかな。ナザルさんが結婚するのは国を挙げてのイベントになるだろうし、そこで出る料理ならば彼がプロデュースした最新の美食であるべきだ。私の故郷であるツーテイカーも彼の世話になっているからね。ああそうだ。冷凍魔法とビールを取り寄せておくよ。人数分用意ができる」
「なんだって!? なんかそこまでしてもらうのは悪いなあ……。幾らかかる?」
「ツーテイカーからのご祝儀だとでも思っていてくれればいい。我が国は君からそれだけのものを受け取っているからね」
ほほー、策謀の国ツーテイカーも義理堅いところがあるもんだ。
僕が感心していると、シャザクがじろじろ飼い主氏を見ているのだった。
「……なんでそんな凄まじい決裁権を持っているんだ……? ナザルの式の参加者を満たす量など、ツーテイカーの規模からすると恐ろしい出費だろうに」
一介の使者にそんなことは不可能であるとシャザクは言っているのだ。
いやあ、深入りしないでおこうじゃないか。
飼い主氏、ツーテイカーの幹部たちが来てもへりくだるわけでもなく、普通に接していたり、彼と一緒にいったツーテイカーの現地でもかの地のボス相手にへりくだるとかそう言うのが全然無かったし。
内心、この男がツーテイカーの支配者なんじゃないのか?
とか考えなくもないが、考えないでおこう。
ほら、ギルボウなんかそんなこと気にもしてないぞ。
ピカピカに磨かれた白米を眺めてニヤニヤしているじゃないか。
「なんで白米見つめてニヤついてるんだ気持ち悪いやつだな」
「なんだと!? 俺が待ちに待った米がやって来たんだぞ! どれだけ待ったと思ってる! 四ヶ月だ!」
「割と早かっただろ」
「早かったなあ……。じゃあ、作るか、カレーライス」
「やるか!」
そういうことになった。
シャザクも、いざ料理が作られるとなると飼い主氏の詮索どころではなくなったようだ。
「どれ、私も手伝おう。野菜の皮を剥けばいいか? 私の腕はちょっとしたものだぞ」
「よーし、では私は肉を叩いて柔らかくしよう」
飼い主氏も加わり、米を炊く僕、カレーを作るギルボウ、肉担当飼い主氏、野菜担当シャザクとなった。
男たちがひたすら料理をする。
心落ち着く光景である。
おお、カレーのいい香りがする……。
これは素晴らしいぞ。
「ギルボウ、カレーに何を入れた……!?」
「クックック……。俺は手が空いていれば常に料理の改良を続ける男だぞ? カレーコにマサラガラムだけでも十分に美味いカレーになる。だが、それはいささかスパイシーさに特化しすぎているとは思わんか」
「ぬう! 確かに、舌にピリッと来る感じのカレーオンリーだった。ま、まさかお前……!!」
「ドライフルーツを煮詰めて抽出したエキスとはちみつをブレンドしたものに様々なスパイスを混ぜ込んでおいたものだ」
「チャツネじゃねえか!!」
この野郎、無からチャツネを作りやがった!!
化け物か……!?
「ほう……。俺はこいつをスイートカレーエキスと呼んでいたが、その名前のほうがちょっと可愛くて呼びやすいな」
こいつの口から可愛いなんて言葉が出るとは。
ここで、シャザクが野菜を炒め始める。
飼い主氏は肉を焼いている。
なるほど、炒め野菜に後から焼いた肉を加えて香ばしさを演出……。
……できる!
スパイスから作られたカレーは、徐々にとろみを得ていく。
そこに、炒めた野菜をドーン!
グツグツ煮込む。
肉は後から入れる?
本格的に香ばしい肉を食わせるカレーにするつもりだな!?
僕も前世でこんな本格カレー、食べたこと無いかも知れないぞ。
実に素晴らしいカレーの香りがしてきた。
そしてさらに、ギルボウ特製、無から誕生したチャツネをブレンド!
茶色に輝く液体が注ぎ込まれると、スパイシーさ一色だったカレーの香りになんとも言えぬ甘やかさというか、丸みが加わった。
うおおお、腹が、腹が減る香りだ!!
「むうううう」
「ぬううううう」
シャザクと飼い主氏が呻く。
そうだよなあ、美味しそうだよなあ!
米も!
炊けたぞ!!
「職人たち、いい仕事したなあ……。真っ白な宝石だぞこれは!!」
ほっかほかに炊きあがった米。
一粒一粒が立っている。
今回、ちょっと硬めに炊き上げた。
やっぱ、カレーは粒のはっきりした米だろ!!
こいつを皿の上によそい……。
そこに、焼き肉を加えて煮込まれたカレーを掛けていく。
以前はひと晩寝かせたカレーがいいとか聞いていたが、食中毒とかこの世界だと怖いからな。
カレーは作ったら食べきるもんだ。
「うおおおおお、凄いカレーが出来てしまった!!」
以前に作った、プレーンなカレーよりも茶色みは薄い。
だが、見てくれこの具沢山!
じゃがいもがゴロゴロ、人参っぽい野菜が一口サイズ、玉ねぎっぽいのは短冊切りで食べやすい。
そしてややあくまでカレーを邪魔しないサイズに切られた肉がゴロリゴロリ!
そしてそして!
器の半分を満たす、白く輝く米よ!
カレーライスよ!
ついにお前にたどり着いた!!
アーランはカレーライスに到達したのだ!
「じゃあいただくか」
そういうことになるのだった。
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