第274話 米は玄米のまま行く
収穫の時が来た!!
たわわに実った稲が穂を垂らしている。
素晴らしい……。
ヨーロッパっぽい異世界なのに、ここだけ日本の原風景みが強い。
なるほどなあ。
秋の田ってのは僕の中にノスタルジーとして焼き付いているらしい。
「ナザルさんが腰に手を当てて田を眺めてるぞ」「そりゃあお前、米をここまで育てるために頑張ってきたんだもんな」「感無量って感じだろうなあ……」「ナザルさんが今までやって来たことに集大成ってことか!!」
そういうことだ。
ちょっと浸る時間をくれてありがとう。
「よーし諸君、収穫だ! 刈り取るぞー!!」
うおーっと盛り上がる職人たちなのだった。
鎌を用意し、みんなでワッショイワッショイと稲を刈り取る。
刈った稲は束にして稲架に掛ける。
職人総出の作業でも、二日掛かりだ。
かなりのペースのはずなんだが、いやあ、よくぞこれだけの稲を育てたもんだ。
二日目が終わり、空っぽになった田んぼと、そこにある稲架に掛けられた稲の山を眺めて感慨にふける。
うーむ……!
これ、アーランで育てた米なんだよなあ!
「明日は千歯こきで米を分離して……。そうだな。どれくらい突く? いや、もみ殻だけ落として玄米の状態で行くか。美味さを追求するなら白米だが、それを常としてしまってはあれの危険性がある。あれ……そう」
脚気だ!
いや、食材は山ほどある世界だからそこは大丈夫か。
だが、白米は美味いが炭水化物と水分以外を徹底的に削ぎ落としたスパルタンな主食と言える。
つまり、美味くてパクパクたくさん食べられるが栄養素の種類がだな。
より意識しておかずをたくさん食べて貰う必要が……。
では、出荷の手間が少ない玄米にして市場に卸し、彼らが手間をかけて白米にしてもらったら高く売ってもらうというのはどうか。
これだな、これで行こう。
夜は酒盛りである。
他の階層の職人たちも集まり、大いに盛り上がった。
明日に残らないようにな!
「えー、ここで我らが偉大なる大親分、ナザルさんを称える歌をだな!」
えっ、なんだそれは!?
「あれか!」「みんなでコソ練したもんな!」「やるぞやるぞ!」「マーマーマーマーマー……よし、声もバッチリだ」「アルコールでちょっと喉が出来上がってるくらいがいい声出るんだよな」
男たちが集まってくる!!
女衆はどこからか太鼓とか弦楽器を取り出して演奏を始めた。
おいおい!
これまさか、観客は僕一人か!!
僕に散々夜這いを掛けまくった女子が「はい、せーの」と合図をして歌が始まった。
『おお、我らが大親分ナザル
その身から油を生み出し、相手を滑らせる
その口から巧みな言葉を紡ぎ出し、人々を繋げる
貧しい食事を救うため
美味しいご馳走探すため
今日も世界を東奔西走
そして見つけた新たな魅力
俺等の食卓にお届けだ
おお我らが大親分ナザル
町に美食がまた増える』
うおー!!
僕のテーマソングだ!!
そして大親分ってなんだ。
いや、僕が移籍第三層から下の職人たちの総元締めなのは間違いないが。
リスペクトを感じると同時に、酔っぱらいがながり声で歌うのでリズムや音階が良く分からない。
これは今度ブラッシュアップしてもらい、アーランの吟遊詩人に歌ってもらうのが良かろう。
いや、ちょっと照れくさいのだが、やはり僕のために作ってもらった曲だ。
広めてやりたいではないか。
とりあえず……。
「感動した!! ありがとう! ありがとう!!」
僕はスタンディングオベーションした。
諸君の気持ちは受け取った!
収穫からの報酬分配量ちょっと増やしておくからな!!
そして、翌日はもみ殻を稲から取って集める。
凄まじい量になった。
それを突く! 玄米にする!
米作りは気が遠くなるような作業だ。
これをもっとシステマチックにできないもんかな。
来年はこのあたりに詳しいドワーフを連れてきて、米作り体験をしてもらい、専用の工具なんかを作ってもらうとしよう。
同時に米俵を作ってだな……。
全て知識神から習った知識だ。
百年くらい自粛モードだと言うのに、望むとすぐに夢枕に立ってくれるんだもんなあ。
なんでだ?
『それはもう、ナザル。お前が私の一番の使徒だからに決まっているだろう。お前、死んだら私の従属神として召し上げるからな? 再就職先決定してるからな?』
「ええーっ!? というか望んでもいないのに夢枕立ちましたね」
『ああ、祝いの言葉を掛けるために他の神の目を盗んで来てやったのだ。なに? ナザルは私を信仰していないだと? ハハハ、最初の信者というものは無理やりこっちから縁を作ってしまうのが神のセオリーなんだ。神を信じる民はすぐに全滅するからな』
「とんでもない事を言ってる。というか僕は神様になるんですか?」
『お前、あれだけの偉業を成し遂げておいてそのままあっさり死ねると思うなよ? 今の状態でも余裕で神だからな。お前は既に生きている人間たちからも信仰されている。それでいてお前を憎むものは少ない。というか憎む隙を与えずに姿を視認する前に始末したりしてたから結果的に憎まれてない。これからもお前はノーザンス大陸に新たな美食を生み出していくことだろう。神だ。もう神になるしかない。それから米の完成おめでとう。ではな』
「あっ、消えた!! 最後についでみたいに祝福してから消えた!」
そこで目覚めてしまった。
なんと破天荒な神だ。
知識神からすると、僕こそがこの時代最初の使徒ということになるわけか。
しかもショッキングなことを言われた気がする。
まあいい。
今は米の出荷に全力だ。
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