第268話 インディカ米あったわ!!
玄米のまま、インディカ米があったことを思い出したのだった。
ちょっと悪くなっちゃってるかもなあ……と思いつつ、だがこれがあるならやれる!
カレーが!
カレーライスではなくて、インド風カレーって感じだと思うんだが。
だが、これで汚名返上。
ドロテアさんにカレーをご馳走できるぞ。
僕はインディカ米を抱えてギルボウの店に行った。
そうしたらめちゃくちゃ忙しいではないか。
「おうナザル! 忙しいんだ! 手伝っていけ!」
「天下のシルバー級冒険者に仕込みの手伝いさせる料理人なんかギルボウくらいだぞ」
「つべこべ言わずにやれえ」
ええいこんなことなら水田の様子を見に行けばよかった。
とか思いつつも、仕事の手は抜かない。
揚げ物を担当し、バリバリに揚げた。
ハハハ、美味かろう美味かろう!!
客の胃袋をガンガンに膨らませ、満足して帰らせたのだった。
「ふう……実にいい仕事をしてしまった」
「おう、おつかれ! 賄い食ってけや。これ、俺が発酵させずに焼いたパン。カレーと合わせるとうまいんだ」
「チャパティじゃん!! お前、無からこれ開発したのかよ!!」
「何を言ってるんだ。昔から料理人の手抜きパンとして有名だぞ? 俺はこれにちょっとフレーバーを混ぜ込んでひと手間かけてる」
そしてギルボウが出してくるカレーもまた、余り物の野菜をすりおろし、肉の切れっ端を入れたやつなんだが美味いんだ。
ちょっと辛口だな?
食欲が進むぞ。
もりもり食べた。
恐ろしく美味い。
やはりカレーはいいな。
「そうだった、カレーだ!」
「おう、カレーだな」
「いやそうじゃなくてな」
僕は玄米状態のインディカ米を取り出した。
「実はこの間、米は消費しきってしまったって言ったじゃないか」
「言ってたな」
「だがあったんだ。形はぜんぜん違うし、料理の仕方も異なるんだが、カレーに合う米がまだあったんだよ」
「ほお!」
目を丸くするギルボウの前に、玄米を袋からざらざらと出す。
細長い三日月みたいな米を見て、ギルボウが唸った。
「これも同じ米なのか……!? 全然形が違う。というか、恐らくこりゃあ調理法も食味も全然違うな」
「ひと目見て分かるか! さすがだな……。それに香りもあるだろ? ……待てよ。香り米ということは、インディカ米の高級種、バスマティ米なのか……!?」
これは話が違ってくるぞ、と唸る僕をよそに、ギルボウは米をつまみ上げ、香りを書いだり口に含んでみたりしている。
「ふむ、こいつからカラを取って米にするんだろう? やっていけやっていけ。それで一旦料理して食ってみよう。俄然興味が湧いてきた」
心強い男がやる気になった。
僕らはこの長粒種の米から、米ぬかを取ることにする。
細い米を精米するというのがなんとも神経のいる作業で、折れないように折れないようにしながら磨いていく的な……。
ええい、くそう、面倒だ!
「このプロセスを研究して、精米用の道具をドワーフ職人に作ってもらうか」
ギルボウがナイスアイデアを口にした。
「いいな! そうしよう! だが……とりあえず僕らが食う分は確保しよう」
十数分かけて、ようやくある程度の米を準備できた。
今度はこれを沸かしたたっぷりの水に入れ、ガーッと茹でてからざるに空け、さらに鍋で炒って水気を飛ばし、蓋をして蒸す。
「全然調理工程が違うんだな。同じ米でもこれほど変わるとは……」
「そうなんだよ。しかも味まで全く違う。驚くぞ」
皿にざっと盛ったものに、温め直したカレーを添えた。
では実食してみよう。
「うおっ! スプーンにさらっと掬えるぞ! 粘りが無い!」
「そう、パラパラした米なんだ。そして米自体が香りを放っているだろ。カレーにつけても美味いんだが、米自体に味をつける食べ方でも美味しい」
「なるほどなあ。どれどれ……。おっ!! 口の中ではらはらとほどける! こりゃあ……確かにお前が最初に持ってきた米とは別物だな! うん、俺はこっちの方が好きかもしれん」
ギルボウの作ったカレーが、割と水気多めだったのもあるかも知れないな。
ちょうどタイカレーにタイ米を合わせたような状態になっている。
僕も口に入れてみたら、これがまた美味い。
さらりとしたスープっぽいカレーでほどける長粒種の米。
このままでも飲めてしまいそうだ……。
いかんいかん、咀嚼せねばな。
あー、いかんなこれは。
いくらでもいける。
チャパティでカレーを食べてたのに、インディカ米でもカレーがどんどんいける。
おお、こんなものを世の中に放ったらアーランの民が太ってしまうことだろう。
みんな、ちゃんと生活の中に運動を取り込むんだ。
そうしないと成人病一直線だぞ!!
つまりそれくらい美味しい。
「これはドロテアさんに出してOKなやつだな」
「間違いないだろう……。それでナザルよ」
「なんだ?」
「この米も、ドロテアさんに食べてもらったら無くなってしまうだろう。そうしたら俺たちは、米を食えずに半年待つことになる。そうだな?」
「そうだ」
「なんでこの味を教えたんだ……!! くう……これをしばらく食えず、料理にも挑戦できないのは生殺しだ……! 早く、早く半年よ経過してくれ……!!」
そこまで気に入ってくれたのは実に嬉しい。
米を生産していく甲斐があるというものなのだ。
お読みいただきありがとうございます。
面白いと感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




