第265話 コゲタ初めての冒険
アイアン級のバッジが到着する前に、コゲタを中心とした冒険をしてみようということになった。
お祝いにコゲタの装備を買う。
最近は資金的に余裕ができてきた僕は、コゲタの服をちゃんとした洋服店で買っているのだ。
この世界の服は高い。
基本的に 新品はオーダーメイドしかないから、ロバ一頭くらいの価格がする。
なので、一般的にみんな古着を買って使うのだ。
子どもなんかは特にそうだな。
サイズがどんどん合わなくなるから、古着屋に売って古着屋で買う。
で、古着屋は古着を補強したり、端切れで色々足したりするから……。
以前のコゲタはカラフルなパッチワークだらけの子供服を着ていた。
これはこれで大変可愛い。
で、金が出来てからはオーダーメイドのコボルド服を着ていたんだが、これもお洒落でなおかつ可愛い。
だが、冒険に行くためにはそういう普通の服ではよろしくない。
僕は急遽、飼い主氏の伝手を使ってツーテイカーからコボルド用作業着を取り寄せたのだった。
体の大きさの差があっても、紐を使ったり腕まくりしたりして、大体の小型種のコボルドにマッチする作業着!
「いいいぞコゲタ、すごく似合うぞー」
「ありがとー! なんかうごきやすーい!」
「うんうん、オーバーオールっぽい格好は変わらないが、膝や肘にプロテクターを付けてあるからな。これで怪我もしにくになるぞ。それで……どういう冒険をしたい?」
「んー」
コゲタがくにゃっと斜めになって考え込んだ。
今までは僕が持ってくる仕事についてくる感じだったもんな。
だけど今回は、コゲタに選択権がある。
「自分で考えて決めてみよう。まず選べるのはこういう依頼だね」
僕は選択肢を示す。
「まずは薬草採取。これは森に入るし、ちょっと危険もある。アイアン級はモンスターと遭遇したら撤退すること推奨な」
「うんうん。コゲタやくそうみつけるのうまいよ!」
「そうだなー。コゲタは鼻がいいもんなあ。次に、街の掃除。馬糞とかたくさん落ちてるだろ。あれを拾って遺跡まで届ける仕事だ。臭いけど、これは街の食べ物を作るための大事な肥料になる。大切な仕事だぞ」
「コゲタもうんちするもんね」
「そうだなー。あれも全部肥料になってるからな。最後に、下水のネズミ退治だ。大ネズミがちょこちょこ繁殖するから、間引かないとな。これは凄く臭いからコゲタは嫌だと思うが……」
チラッと見たら、コゲタが本当に嫌そうな顔をしていた。
「くちゃいのや! うーん、やくそうさがす!」
「よーし、じゃあ薬草採取で行ってみよう」
仕事の内容は決まった。
今回の仕事はコゲタがリーダーだ。
自分で色々考えてもらって、僕はそれを見守るとしよう。
コゲタは「うーんうーん」と唸ったあと、ハッとした。
「おべんと!」
「正解! 出先でお腹が減っても、森の中で食料なんか調達していたら間に合わない。すぐに食べられるお腹に溜まるものは絶対に必要!」
「やったー!」
というわけで、甘くしたビスケットとジャーキー、それとお茶にドライフルーツを買った。
保存食系はいいお値段がするので、安くあげるならビスケットか揚げパスタがおすすめだ。
揚げパスタは茹でた後のパスタを揚げたやつで、塩やハーブが振ってあるぞ。
カリカリかじりながら仕事ができるし、口の中で戻しながらのんびり食べてもいい。
口寂しくならないから優秀なおやつだ。
「いこー!」
「よっしゃー!」
僕とコゲタで、森に向かう。
いつもは僕の後ろをついてくるコゲタが、今は先頭だ。
成長したもんだなあ……。
木こり職人たちに、「こんにちはー!!」と元気に挨拶をする
職人たちも、「おっ、今回はちびが先頭か!」「がんばれよー!」と手を振った。
ムフーっと鼻息も荒く、やる気満々のコゲタ。
いいぞいいぞ。
森に入ると、コゲタは油断しない。
鼻をくんくん、耳をヒクヒクさせながらにおいと音に注意しての行動だ。
冒険者としての基礎的な素養がきちんとできてるな。
基礎戦闘力で劣るコボルドだからこそ、慎重に慎重を重ねてもやり過ぎということはないのだ。
コゲタはちょこちょこ進んではきょろきょろ、ちょこちょこ進んではきょろきょろ。
こんな入口には薬草は生えてないはずだが……。
「これ!」
「おお! 見つけたか!! えっ、ちょっと奥にある倒木の陰に?」
「はえてる! みてて!」
コゲタがえっさ、ほいさ、と地面を掘り返す。
犬の技だ!
なるほど、これは人間には真似できない。
土の中から、ちょっとだけ希少な薬草が発見された。
これはキノコの仲間なんだよな。
トリュフかな……?
トリュフかも知れない。
つまり、コボルドの冒険者が薬草採取に参加したら、このトリュフがたくさん採れるってこと?
実は森には、僕らのまだ知らぬ食材が大量に眠っているのかも知れない……。
その日コゲタは、トリュフっぽい薬草をカゴいっぱいに回収したのだった。
これはなんと、薬草の中では買取価格がかなり高い。
掘り返さないと手に入らないのだから、さもありなん。
メガネでのっぽの受付嬢が、「普段は掘り返された地面からはみ出ている、干からびたものを主に採取されるんです」と教えてくれた。
「トリフーというんですが」
「まんまだな」
「まんま……?」
「なんでもない」
「トリフーのこれだけ新鮮なものがたくさん採れたなら、きっと調合師の方々が喜ぶと思いますよ。でも、あまり採りすぎると価格が下がりすぎますから……」
「なるほど、薬として使うなら採り過ぎ注意と……」
だが、食材としてはどうかな!?
ともあれ、コゲタの最初の仕事は見事成功で終わるのだった。
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