第231話 もうすぐ出航か
知識神からのお告げにより、出航が近いことを知った僕だ。
だが、別にお告げされなくても知らせに来る人がいるのだが?
「ナザルさん~」
「おおダイフク氏」
「出航が明日です」
「知ってた。神のお告げで」
「あっ、こちらの神もフランクな感じでやってくるんですな」
ダイフク氏が目をギョロギョロさせるのだった。
さて、ここは知識神の神殿。
ギルドやギルボウの店にいない場合、僕は神殿に入り浸っている。
ここ、しょっちゅう知識神が来ては僕と雑談していくんだよな。
いい暇つぶしになる。
ついさっきまで、その知識神にお手玉を教わっていたコゲタが、ハッとして振り返った。
「おさかなー!」
「ノーノー」
駆け寄ってくるコゲタにノーノー言いながら、ノリ良くタッチしてあげるダイフク氏なのだった。優しい。
彼は船の副船長であり、偉い人なのだ。
だがそんな地位を感じさせない人柄。
カエルの人は優しい。
ちょうど神殿に来ていた……というか、今朝からずっといる知識神がダイフク氏を見てフームと唸った。
彼の外見は、光りに包まれたマッチョなシルエット。
そう、マッチョなんだよな。
知識神いわく、『脳とは最も活発に動く筋肉である』なんだそうで。
肉体をも頭脳に変えるために、こうして鍛えているのだそうな。
実際、プラチナ級冒険者の資格を持つ実力者、フォーエイブル男爵を反応すら許さず吹っ飛ばすからな。
さすが神様。
『お前は異界神の眷属だな? いやあ、あの泥人形が完全に種として定着し、しかも高度な自我まで持つに至ったとは……。大したものだなあ。異界神は眷属に愛情を注いで育てているな』
うんうんと頷く知識神なのだった。
この人本当になんでも知っているので、深くは突っ込むまい。
だが、瞬間瞬間の人間の情動みたいなのが好きらしくて、こうして雑談をしにやって来るのだ。
「どうもどうも。うちの神様がお世話になってます」
『わははは、我らのみそっかすであった海神が前向きになれたのは、異界神とくっつけたお陰よ。感謝するのはこちらだ』
「神様間にもドラマがあるんだな」
『話すと長いぞ』
「遠慮しておきます」
ということになり、僕はダイフク氏と出かけることになった。
知識神はもうしばらく神殿にいるらしい。
そうしていることで、神様を拝みに地元の若い子とかがやって来るんだそうで。
そこを神官氏が勧誘して信者に変える。
僕が神殿で管を巻いている間に、もう三人教化されたぞ。
『あまり急に増やすと他の教団から危険視される。一ヶ月に十人以内にしよう』
「かしこまりました我が神よ」
戦略立ててるなあ。
そんなのを後にして、三人で向かう先は冒険者ギルド。
ここでリップルを回収して……。
「あっ、もうそろそろ旅立ち? じゃあ荷物取ってくるから私の宿に寄ってよ」
安楽椅子冒険者、僕らを荷物持ちに使うつもりだな!
しっかりしている。
ではリップルの宿に寄っていこうということになった。
四人になった僕らが向かったのは、かなり古びた感じのお宿。
リップルの住まいだ。
外壁が石造りだから長持ちするんだな。
中に土を張って、防寒処理がされているらしい。
その代わり夏は暑い。
リップルは夏場、ほぼギルドにいる。
夜になると熱が多少マシになるので、魔法でさらに冷却してから寝るんだそうだ。
そのリップルが今!
窓から僕らにポイポイ荷物を投げてくる。
投げるのをやめなさーい。
なんとお行儀の悪い。
とりあえず、着替えの類を一通りまとめた。
「リップルさん、荷物が多いので減らしてください」
「ええーっ」
「言われたとおりにしなさいリップル」
「なんでー」
ぶうぶう言いながら、荷物の種類を減らすリップルなのだった。
そしてワイワイと港へ向かう。
船はたくさんの荷物が運び込まれるところであり、明日の朝一で出港するのは確実というところ。
船主が僕らを見つけて、手を振ってきた。
「おーい! 明日の明け方に出発だ! 今日は船で一泊して行ってくれ! まあ、その後はずっと船の中だがな! わっはっは!」
船乗りジョークだ!
それじゃあ乗せてもらって……ということで、僕らは船内に入ったのだった。
船主の部屋は甲板の上にあり、最後尾。
その前に左右、船長室と副船長室。
そして真下の階が客室で、僕らの部屋だ。
「ふーむ、大部屋か……」
「ははあ、私とナザルとコゲタで同じ部屋かい」
「一応男女なんだがいいのかな」
「一応とはなんだ、一応とは。私は別に目隠しの魔法なども使えるから問題ないよ。部屋が広くていいし、窓もある。いい部屋じゃないか」
リップルが気にならないならいいか。
その後、コゲタが「おふねのなかあるきたい!」と言うので、散歩をすることになった。
船内ならば安全だな。
問題は、甲板にいる時に船が揺れたら、コゲタが放り出されそうなこと。
外に出る時は、コゲタの腰にリードをつけることにしよう。
以前来た時は気づかなかったのだが、甲板を掃除している水夫の中にコボルドが混じっている。
大型のコボルドだから、コゲタより大きいな。
「あれっ!? バンダナしてるから目立たなかったけど……もしかして君、垂れ耳族のコボルド!?」
「あっはい。そうです。故郷の島でスカウトされて……。今年は平地に降る雪を初めて見られて、本当にいい年でした」
レトリバー種のコボルドだ……!!
周りをぴょこぴょこ走り回るコゲタを見て、彼はニコニコしていた。
「船の上でのコボルドのやり方は僕が教えますから、安心してください」
マキシフという名の彼がいるなら、コゲタの船上暮らしも安心かもしれない。
僕は僕で、彼から垂れ耳コボルドの話をたくさん聞きたいものだ。
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