第224話 砂漠の王国を後にして
カレーコが山程採れて、採掘の仕方も明らかになった。
ということで、砂漠の王国から大いに感謝されたのだった。
僕はカレーコをちょっとだけもらい、持ってきたマサラガラムをみんな置いてきたのだった。
「ナザル殿! あんたのことは忘れねえ! きっとカレーを発展させて、この料理で天下を取ってみせるぜ!!」
「王様がいるのに天下を取る発言は……」
「あっあっ、味の天下を取る」
アブダビ、失言のクセがあるのではないか!
気をつけような……!
その後、執政官と握手をし、アーランとの交流を深めることを約束させた。
そして陛下の前にひざまずく。
「素晴らしい料理だった。日々の暮らしに楽しみが増えたぞ、ナザルよ。聞けばあのカレーなる料理、まだまだ発展途上とのこと。あの美味さがさらに変化するのか!? 余は今から楽しみでならぬ!」
「陛下、失礼ながら、一つだけご忠告をお許しくださいませ」
「ほう、なんだ。申してみよ」
「かの料理、カレーは栄養にみちみちており、食欲増進効果もございます。そうなると……! 贅沢病という病気になる事がございます」
「おお!! 王家の中で、食道楽を極めたものは贅沢病にかかり、早くに亡くなったという。それか……!」
「はっ、仰るとおりです。ですので、よく食べた後は、よく体を動かし、栄養を消費することでまた空腹となり、食事がさらに美味しくなります」
「なるほど……! 長く、そしてより多くの美味を口にするためにこの身を健康に保つというわけだな? 良かろう! そちの忠告、確かに届いたぞ!」
次に砂漠の王国に来た時には、王様はマッチョになってるかもしれないな。
アーランのデュオス殿下がマッチョになってるんだから、絶対に同じ道を歩むだろ。
僕は親書を受け取った。
まるで親善大使みたいなことをしているな……。
僕は美食を広めたいだけなのだが。
ということで、僕らは砂漠の王国に別れを告げた。
二泊三日くらいしかいなかったな。
ここから一週間ちょっとの旅でアーランに帰還なのだ。
そろそろ冬が終わっているかも知れないな……。
「よーしいこー!」
コゲタが元気にトテトテトテー!と走っていく。
途中まで、ターバンを被った毛のないコボルドが並走してきた。
「コゲタ! またね!」
「アジャー、またねー!」
どうやら現地でコボルド友達を作っていたらしい。
世界中に友達ができるなあ!
ヘアレスドッグのコボルドなのか。
色々いるんだなあ……。
二人でハイタッチなどをしているので、これはコボルド間の挨拶なのかも知れない。
「コゲタは友達を作るのが得意だなー」
「うん! いっぱいともだちできた!」
いいことだいいことだ。
コゲタをナデナデしつつ、砂漠の王国を後にする。
僕が歩くと、やはりモンスターがほとんど出てこない。
「恐ろしく楽だ……。いや、僕がいればどんなモンスターが出ようと苦戦はしないのだが……。それこそ、ベヒーモスレベルの相手以外が出てこないのはどういうことだ」
「ナザルさんが恐れられているんですねえ~。すっかりビッグになって~。ナザルさん、ゴールド級になったらいいのに~」
「これ以上義務が増えるのは嫌だ……! 何せ、今の状況でもパトロンがいるし、コゲタを養いながら暮らすのに十分なお金はありますからねえ」
僕は出世に全く興味がないのだ!
これからもシルバー級以上には上がらないようにしながら、日々を面白おかしく暮らすぞ!
何の問題もなく砂漠地帯を抜けていく。
ステップに入ったら、流石に賊がちょっと出た。
ツインがいそいそと出ていって、一瞬で殲滅した。
恐ろしい戦闘力だ。
全身武器みたいな男だ。
僕とルリアとコゲタで、後ろで眺めながら「がんばれー」と応援していた。
清々しい汗をかいて戻ってきたツインが、僕を指さして、
「君は! 戦え!」
とか言ってきたのだった。
戦っても何もいいことがないじゃないか。
ステップのめぼしい賊は排除してしまったらしく、その後の襲撃は全く無かったのだった。
思ったんだが、この一行、オーバースペックなんじゃないか?
あまりにも強すぎる。
本来治安が悪い、砂漠の王国からの道。
だが、何の問題もなく旅路を行くことができるのだった。
そして見えてきたぞ、アーラン。
「あっという間だった」
「驚くほど平穏な道中だった……。ここまで何も起きないとは……」
ツインはちょっと不満かね。
ああ、ルリアにいいところをあまり見せられなかったもんな。
さて、外から眺めるアーランは、屋根の上に積もっていた雪がすっかり解けている。
晩冬に入った頃合いだろうか。
ここで、僕らは夜用の装備を着込むことになる。
ステップや砂漠は、夜が冷える。
そのため、アーランで言う冬用に近い装備を持っていく必要があったのだ。
気候が大きく変わっても大丈夫なのは便利だね。
「わーっ」
コゲタが駆けていくと、もこもこに着込んだ門番たちが出迎えてくれた。
「やあ、黒い毛皮のコボルドということは、ナザルさんとこのコゲタだな」「戻ってきたんだなあ」
「ただいまー!」
コゲタの元気な声が響く。
ちょっと離れているだけで、アーランが恋しくなるものだ。
さて、ここでカレーの完成形を生み出すとしようじゃないか。
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