第188話 寄り道は続く、魚の南蛮風
フォーゼフの美味しい野菜に舌鼓を打ち、それはそれとしてスムージー酒は美味くなかったよなあ、体には明らかに良かったけど……。
なんて思い出を得た僕ら。
農業の国を後にする。
そしてしばらく旅をすると、周囲が大変ポカポカと暖かくなってくるのだ。
大陸で一番温暖な場所といえば……。
「ご主人ー!! うーみー!」
先をトテトテ走っていったコゲタが、視界がひらけた場所でぴょんぴょん飛び跳ねた。
森とか茂みとか草原だったのが、いきなり右手側が岩礁になったねえ。
海がどこまでも広がっている。
この大陸の南方には、お米があるという島と巨大な大陸が存在しているらしいが。
西方には何があるんだろうな。
案外、未知の大陸があったりして。
夢が広がるなあ。
そんな感じで一日旅をしたら、眼の前が巨大な砂浜になった。
程々の距離の海の向こうに、島がある。
「一年ぶりだなあ、ファイブショーナン! そろそろ秋のはずだけど、ここは本当に常夏だな!」
「入国審査が厳しいと聞くが、入れるのか?」
飼い主氏が心配しているが、大丈夫大丈夫。
僕がいるから顔パスだ。
しばらくすると潮が引いていき、島までの道が浮かび上がってきた。
トコトコと渡っていく僕らなのだ。
島の入口にはムキムキのお兄ちゃんが立っていて、僕らを止めた。
「入国審査をする。お前はうちの国の人間っぽいからいいよ」
「相変わらずザルだ!!」
僕だけファイブショーナン人に特徴が近いので、スルーされるのだ。
「僕は女王陛下の友人である油使いなのだが。ほら、油をだらだらーっと」
「あーっ、陛下のお知り合いでしたか。あの噂のナザルさん? グルメの巨人ナザル?」
「妙な称号がついてるな……」
結局僕の仲間だということで、シズマも飼い主氏も通してもらえた。
飼い主氏はツーテイカーの工作員なんだが、誰の連れかという信頼はとても大事なのだ!
なお、コボルドはスルーだぞ。
「コボルドが何か企むことなんかありえませんからね」
「全くその通り」
「あったかーい!」
「ぽかぽかー!」
コゲタとアララちゃんがはしゃぎながらファイブショーナンに駆け込んでいく。
うんうん、南国らしい植生と、土でできた道。
ログハウスっぽい家ばっかりある町並みとか、テンション上がるよな。
どう見ても南国の島なんだもんな。
日差しが常に強い。
だが、日陰がたくさんあるし、そこに入れば全く暑くなくなる。
海風が吹き抜けて大変気持ちいい。
これぞファイブショーナン。
「おお……!! なんというところなんだ! ただこうして立っているだけで心地良い……。この世の楽園……」
「まさにな。そのかわり、文化的にも技術的にも未熟なままだ。なぜかっていうと、人間、満たされていると成長する必要がないからだ」
「なるほど、深い……」
「今度アーシェを連れてきてやりてえなあ」
おっ、シズマが彼女持ちらしい事を言ってるじゃないか。
その彼女を二ヶ月ほったらかしなわけだが!
「せっかくなんで女王陛下に挨拶して行こう。こっちだ」
僕は宮殿に向かうことにした。
おっ、道行くおばちゃんに、コゲタとアララちゃんが果物をもらってるな。
にこにこしながら「ありがとー!」とお礼を言っている二人。
ありがとう言えて偉いぞ。
ついでに僕らも果物をもらってしまった。
あんまり甘くないマンゴーみたいなやつだ。
喉の乾きが潤うー。
五人でもりもり食べながら歩いていたら、宮殿が見えた。
どでかいログハウスである。
門番たちが座り込んでゲームみたいなことをしていたのだが、僕らに気付いてよっこらしょ、と立ち上がった。
「外の人間だな? 女王陛下はお会いにならんぞ」
「ナザルだよ。油使いのナザル」
また油を出す様を見せると、門番たちがハッとした。
「あのスーパーグルメアドバイザーのナザルか!?」
「また変な二つ名が出てきたぞ……! ここの住人、暇つぶしに僕にあだ名つけて遊んでるじゃないだろうな……?」
だが、通してくれることになった。
飼い主氏が感心している。
「さすがはナザルさん、顔が広い……!」
「ファイブショーナンとアーランの国交を樹立したの、半分は僕の功績だからね……」
「なんという人だ……!!」
顔が広いと、どこでも美味しいものが食べられるようになるからいいぞ。
例えば……。
「おお、ナザルではないか! ちょうど魚の南蛮風を食べるところだったのじゃ! たくさん量を作ったからそなたらも来るがよい!!」
ゴージャスなお姿の南国美女が現れた。
女王陛下のバルバラ様である。
「やあお久しぶりです。近くに来たんで寄りました。最近どうです?」
「アーランからどんどん美味いものが入ってくるのでな、食べるのが実に楽しいぞ! まあ、この気候ゆえ日持ちがせんがな」
「あったかいですからねえ」
「なので国民の食生活は実は全然変わっておらぬ」
「うーん、ファイブショーナンの日常を維持する力が強い」
国民は今の生活を変える面倒さよりも、現状維持の楽ちんさを選んでいるらしい。
そしてそして、ご馳走になった魚の南蛮風は大変美味しかった。
寒天のジュレソースが進化しているなあ。
「あっ、魚美味い……。こんな味付けがあるんだ……」
「あー、白飯が欲しい~」
「おいしー!」「おいしー!」
僕ら、色々美食を体験しているが、なんだかんだ何を食っても美味いよな……。
舌が肥えないというのはいいことだ。
こうして、ファイブショーナンでも一泊するつもりでいる僕なのだった。
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