第148話 パスタパンの隆盛
僕は大豆を広めたはずだったのだが……。
なぜか、しばらくして広まったのは普通のパスタを挟んだパンだった。
なぜだ。
納豆パスタが広まっていない!
そろそろ夏になるなあという頃合いで、コゲタと散歩をしてたら、あちこちの屋台でパスタパンが売っていて気付いたのだ。
「これは……ひき肉パスタパン」
「おっ、兄ちゃん、パスタパンは新商品だよ! うまいよ! 安くて腹に溜まるよ!」
そりゃあそうだろう。
炭水化物in炭水化物だ。
血糖値もドカンと上がる。
あとは具材やソースの工夫で味も変わるだろう。
だが……。
「納豆パスタがない」
「ナットーパスタ? ああ! あの妙な臭いがする豆な! ありゃあなあ……。好きな人は好きらしいが、ダメな人はとことんダメでなあ……」
屋台のおじさん曰く、納豆パスタパンはリスキーなので取り扱わないのだそうだ。
なんたること。
なので、並んでいるのはひき肉とトマドソースのパスタパン。
男子はひき肉、女子はトマドソースがよく売れるようだ。
主に、肉体労働系の人々がこれをパクパクやりながら仕事に励むということだった。
なるほど、確かにエネルギーの塊であるからして、元気に働けるだろう。
ここに納豆パスタパンがあれば、もっとヘルシーに活動できただろうに。
良質な植物性たんぱく質だぞ……!
いや、それは味噌や豆腐でもいいよな……。
僕は冷静になった。
「ご主人、おかおがどんどんかわる! おもしろーい」
面白がられてしまった。
まあ、コゲタが楽しいのなら良かろう。
トマドパスタパンを買って、二人で食べながら冒険者ギルドを覗いた。
最近、コゲタをアイアン級冒険者にすべく、登録作業をしているのだ。
コボルドの冒険者というのもちょっとはいるらしく、上がってもカッパー級までらしいが……彼らは主に採取や遠距離配達などの仕事で活躍しているそうだ。
「やあやあ、コゲタの登録に来たよ」
「あらナザルさん、トマドパスタパンですか。美味しいですよねえ。ちょっと太っちゃうくらい美味しい……」
おさげの受付嬢エリィが意味深なことを言う。
もしや食べすぎた……?
「パンと味付けパスタがあんなに合うなんて……」
「僕はそれを聞いて、パスタパンよりもヘルシーなパンを開発せねばと思ったよ」
とりあえず納豆がダメだったから、麻婆豆腐パンでどうだ。
いけそうだな……。
「それとコゲタちゃんの登録ですけど、今年の秋頃には登録できる年齢になるので」
「コゲタの年が分かるの?」
「コボルドの大体の体格ですね。まだこの子は未成年くらいなので」
「そうだったのかー」
「んー?」
パスタパンを食べ終わって、満足げなコゲタ。
話は全然聞いてなかったっぽい。
だけど、うちに来てからコゲタも随分大きくなったな。
ほんのちっちゃかったのが、耳の先が僕の腰に来るくらいになった。
現実の子供だとすると、五歳児くらいのサイズ……よりはちょっと小さいか。
じーっと僕の食べかけのパスタパンを見ている。
「ほしいの?」
「ほしいー」
「だーめ。食べ過ぎはよくないぞー」
「ええ~」
コゲタが足をパタパタさせた。
これを見てエリィがにっこりする。
「コゲタちゃんはどんどん感情豊かになってきますね。ナザルさんに愛されてるからかなあ。あー、私も愛されて感情豊かになりたいなあ」
「じゃあこれで失礼します……」
熱視線を食らったので、僕は素早く退散した。
ギルド内酒場までやってくる。
なんか、男たちもみんな集まって、豆腐ドーナッツを食べているではないか。
「なんだなんだドーナッツブーム到来か?」
そうしたら、彼らの中に混じっていたバンキンが、
「いやな、トーフを食うと腹持ちがいいのに、割と筋肉がつくんだよ。肉ばかり食ってると腹が重くなるだろ。だがトーフも合間で食うと、肉の量がほどほどでも体を作れることが分かってな」
大豆たんぱく……ソイプロテインだからな……!
血流が良くなるぞ。
体調も良くなるから、色々メリットがあるぞとみんな気づき始めたようだ。
これは戦士の間にプロテインブームが来るか……?
「ナザルさん、こっちは牛乳を使ったドーナッツ。こっちも売れてるんだ」
「ホエイプロテイン!!」
なんてことだ。
マスターがスイーツに様々な食材を混ぜ込み、高機能栄養食品を作る人になりつつある。
そんな男どもに混じって、リップルがせっせとドーナッツを食べてお茶を飲んでいるではないか。
「リップルも筋肉つけるの?」
「何を言うんだ。いいかい? 豆腐ドーナッツはヘルシーな上に、肉体を作る栄養も接種できるんだ。つまり完全食品じゃないか」
このエルフまでおかしなことを言っている。
だが、ケーキばかり食べるよりは健康に良かろう。
「ご主人! コゲタもドーナッツたべる!」
「よし、こっちならタンパク質も入ってるからいいでしょう」
「やったー!」
コゲタ大喜び。
僕は自分のぶんのパスタパンを食べきると、マスターに注文をするのだった。
「僕もコゲタも、豆腐多めのドーナッツで」
「かしこまりました。分量を間違えたのが幾つかあるので、食べるのを手伝ってもらえるのはありがたいですよ」
「マスター、豆腐多めのドーナッツ絶対にニーズがあるから! 出そう、おかずドーナッツ!」
「ノーノー、私はスイーツしか作らない……!!」
くそー、マスターの矜持は鋼の如きだな。
なお、豆腐多めドーナッツはコゲタに大好評だったのだった。
納豆パスタと素材は一緒のはずなのに……。
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