第131話 釣りのお誘いにカエルとトカゲの人が来た
「ナザルさん、釣りに行きましょう」
「誘いに来ましたぞ」
「うわあ、なかなか強烈な顔ぶれだね」
扉を開けたら、リザードマン司祭のサルシュと、カエル人な船乗りのダイフク氏が並んでいた。
一人でもなかなかインパクトが強いのに、そんな二人が並んでいるとは!!
「おや、ナザルさん、どうしたんですか朝から賑やかに……うわーっ」
飼い主氏も部屋から顔を出し、サルシュとダイフク氏を見て驚いた。
扉を開けたらこの二人が並んでたら驚くよね。
しかも、なんと釣り竿を四本も背負っている。
サルシュの腰回りには籠が幾つも。
これは、二人とも揺るがぬ覚悟で釣りにいくつもりだ……!!
「どこに釣りに行くんだい?」
「王城の裏手にある岸壁ですな。あそこがいい感じで釣りができる磯になっていましてな」
「ははあ、確かに水が入り組んでいて、面白い魚がたくさん釣れそうな気はする」
王城は板のような巨大な岩に遮られていて、海側からはその姿を望むこともできないし、侵入はもちろん不可能なのだ。
なので安心して、城の裏手にある磯で遊べるというわけだ。
「よし、行こう行こう」
「フシュシュ、楽しみです」
「行きましょう行きましょう。おや、あなたも行きますかな」
「ふむ……内陸の出身ゆえ、釣りはあまり経験がないのですが……やってみましょう」
飼い主氏も一緒に来ることになった。
そうなると、コゲタとアララも一緒になるわけで……。
あっという間に、六人という大人数での磯釣り行脚となったわけである。
人間は僕と飼い主氏。
コボルド二人に、リザードマンとカエルの人。
街中ならたいへん目立つだろう。
だが、磯辺ならどうか。
物好きな釣人しかいないので、目立たないのだ!
「お弁当は現地調達しよう」
「楽しみですなあ!」
「火種は持ってきましたよ」
「おべんとう!」
「おさかな!」
「アララ、急に走っては危ない」
もう賑やか賑やか。
あまりにも賑やかなので、魚が逃げることを危惧した釣人たちがちょっと離れていったくらいだ。
すまんね……!
子供連れは賑やかなので!
「時に皆さんは酒を飲みながら釣りなどされますか?」
「ワタクシめはイケる口ですが、流石に酔って海に落ちると死にますね」
「わしは粘膜が乾くので、たっぷりの水がないとアルコールは……」
「なるほど……。じゃあ料理に使いますか」
「いいですね! ワタクシめ、味と香りにはうるさいですよ!」
「わしは喉越しが……」
おっと、おじさん組も賑やかだぞ!!
磯釣りはおじさんたちの遊び場みたいなものでもあるからね。
ここら辺りにしよう、と適当なところに座す我ら。
全員が磯釣りの素人なので、何がいいか悪いかなんかさっぱり分からない。
まあ何か釣れるだろ! くらいのノリだ。
僕はサルシュと並んで座り、間にコゲタを設置した。
こうして挟んでおけば、コゲタが落っこちることもあるまい。
「ナザルさんはアレですか。生殖年齢を終えられているのですか?」
「いきなりぶっこんできたな!?」
「冒険者ギルドでの様子を拝見していますと、受付のエリイさんや偉大なるベテランのリップルさん、そしてギルドマスター婦人のドロテアさんから好意的に見られている様子ですが、一人で遊びに行ったり、長時間遺跡に籠もって土いじりをしたり、明らかにお互い気がないキャロティさんたちと冒険に出たりしていますから」
「あー、なるほど」
傍から見ると、ちょっとハーレム的状況に見えるのかも知れないな。
だが、僕はそういうものにかまける気はないのだ。
前世でアラ還くらいまで生きてて、この世界で二十年ちょっと生きてるんだ。
僕の精神年齢は八十歳だぞ。
もう恋愛はいい。いらない……。
どうやらエリィがリップルに、どうやれば僕を落とせるかを聞いたりしてるらしいのだが。
無駄な努力はやめたまえ!
肉体が子どものうちは、神秘的なお姉さんであったリップルにドキドキしたものだが、二十歳を超えた辺りから本来の精神年齢の枯れた感じになってきたのだ。
まあ、もともと生前そんなに色恋に縁はなかった。
なので未練も全く無い!
むしろ今この瞬間を大事にしたいものだ。
「僕はそういうのよりも、美食を生み出したりこうやって釣りをする事を愛している」
「おお、まるで数百年を生きたリザードマンの長老がごとき精神です」
「さようですか」
そんな会話をする中、コゲタは釣り竿を垂らして、ごくごく浅いところで動かしているのだ。
ちょっとずつ、釣りのコツを覚え始めている。
賢いなあ。
「あっ、ご主人~! トカゲのひと~! なんかつれる!」
「おっ!」
「ふむふむ!」
僕とサルシュで興味津々に、コゲタの釣り竿を見つめた、
ごくごく浅いところにいたから、この間みたいな大きな魚が釣れることはないだろうが……。
「んんー!」
コゲタが踏ん張る!
何か、重い魚なんだろうか?
「よしサルシュ、手伝おう」
「いいでしょう。シュシューッ!」
僕らでコゲタを支えた。
「ちゃー!」
完全な踏ん張りを得たコゲタが、裂帛の気合とともに釣り上げたのは……!
「イソギンチャクかあ!」
「イソギンチャクですねえ」
「おもしろーい!」
これは食べられないな。
だが、コゲタは大喜びだ。
しばらく、イソギンチャクをつついて遊んで、また水の中に返してあげるのだった。
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