第124話 磯汁? ブイヤベース?でパワー充填
よく煮込まれた海産物は、ガンガンに出汁を発揮して美味しくなる。
コゲタも食べるから、塩は控えめに。
自分たちが食べる時にちょうどいいだけ振ろう。
「いただきまーす」
「おや、ナザルの国の神の教えですかな? ではワタクシめも。おお太陽神よ、大いなる輝きの元、今日の糧に感謝します。美味そう! 美味そう! 美味そう!」
「思ったよりも野性的な聖句だった」
「うまそう! うまそう! うまそう!」
「あっ、コゲタがマネをしてしまった」
「ふしゅしゅしゅしゅ、バルガイヤーの教えを理解するとは、感心な子ですな。その気があれば神殿にいらっしゃい。ワタクシめが導きましょう……。コボルドの信徒は初めてですがな」
「わん?」
コゲタはもう、磯汁というかブイヤベースというか、このスープを夢中で食べているところだ。
声を掛けられたら、お顔をびしょびしょにしながら振り返った。
「おいしい?」
「おいしー!」
コゲタニッコニコ。
なんでも美味しく食べるコゲタ。
いいことだ。
僕も塩を振ってから磯汁を食べた。
うん、いい味だ。
野趣あふれる感じである。
雑多な海産物から出た出汁がいい感じで効いているなあ。
あまりに美味そうな匂いを漂わせていたので、近くにいた船乗りとかが集まってきた。
「ちょっともらっていい?」
「どうぞどうぞ」
「うめえー」
「あー、美味いわ。染み渡る」「魚は航海中に飽きるほど食ってくるのにな」「こうやって煮込むと全然風合いが変わって感じるな」「酒が欲しい……」
彼らも夜の見張りらしく、酒は禁止されているようだ。
今夜だけの我慢だからな。
お互いこの夜をやり過ごそうな。
こうして集まってわいわいとブイヤベース的なものを啜っていたら、バンキンとキャロティが戻ってきた。
「うわーっ、美味そうなもの作ってやがる! ぐるっと港を回って腹ペコだったんだ……!」
「今日ばかりはあたしも肉食うさぎよ! そのスープちょうだい!!」
賑やかになった賑やかになった!
では、鍋の采配権をバンキンに譲り渡し、僕らは仕事に出るとしよう。
「腹ごなしの運動だ。さあぶらつくぞ」
「ええ、参りましょうぞ。ワタクシめは夜目が効きましてね。まあ夜は寝てることが多いんですが、種族としては夜が有利で、しかし冷えると動きづらくなるので主に昼間に活動を」
「御託が長い人だな……!?」
「つまりですな。温度を見分けることができますぞ。ワタクシめの目には、ナザルよりもコゲタのほうがちょっと体温が高いのが見て取れる」
「サーモグラフィ!」
リザードマンってそういう能力があったんだなあ。
「コゲタはね! はな!」
「うんうん、コゲタは鼻がいいなあ」
「嗅覚ではワタクシめもコゲタには勝てませんな!」
「やったー!」
コゲタ、褒められたと思ったようでぴょんぴょん飛び跳ねている。
はしゃいで海に落ちないようにね。
こうして、停泊している船と船の間を歩き回る。
警備である僕らは船に乗り込むことも許される。
「どうもどうも」
「ああ、こりゃどうもどうも」
船員たちと挨拶しながら、船の中を練り歩かせてもらう。
僕が知る、こちらの大陸……文明圏の船とはちょっと違う。
意外とこちらの船は東洋風の帆船なんだよね。
で、南方大陸のそれは西洋風というか。
「じゃ、頑張ってください」
「ほい、お疲れ!」
船の一隻からちょうど降りるタイミングだ。
「ご主人、におい!」
コゲタが顔を上げてキョロキョロした。
そして鼻先が向くのは対面の船。
「どーれ? ふしゅしゅっ! 船をよじ登る体温! 水の温度に近くて見分けづらいですが、これは人間ですなあ。三つ!」
「いたかー。海から上がってきたんだろうな」
「あの距離ですと、ワタクシめはちょっと追いつき難いですな。泳ぎはいいのですが、壁を登るのがこの図体ですと」
「大きすぎるのね」
「我らの種族の中にはそういった曲芸が特異な小型種もおりますな! ちなみにワタクシめ、最大の種であるデミドラゴン種でございましてな! ふしゅしゅしゅしゅ」
「あー、でかいもんね……!! じゃあ僕が行くよ」
海に飛び込む僕。
だが、既に海面には油が広がっていく。
「がんばれ、ご主人~!」
「ああ、がんばるぞ!」
コゲタの声援を受けて、海の上を滑る僕。
油あるところ、僕は自在に移動できるのだ。
「異常なアクションをしてますなあ……」
サルシュのしみじみとした呟きが聞こえた。
そんなおかしなことをしているだろうか……? だって油は水に浮くではないか。
僕は足元からさらに油を広げていく。
あまりやり過ぎると、船が浮かび上がって横転してしまう。
量はほどよいくらいで……。
油が船の横を這い上がっていく。
海側から侵入しようとしていた連中は、どうやら僕に気付いたようで素早く動き始めた。
少し遅い。
オブリーオイルとゴマ油を混ぜ合わせた、滑らかな油が加速する。
油は侵入者が手にしていた鉤爪に絡みつき……。
「あっ!」「うおっ!!」「うぐわーっ!!」
つるんと滑って、海に落ちた。
だが潜ることは許さない。
たっぷりの油で彼らの周囲を取り巻き、浮いたままにするのだ。
「な、なんだこれは!?」「油……!」「畜生、油使いが来てやがった!!」「あの野郎冒険者を引退したんじゃないのか!?」
「ところがどっこい、冒険者に復帰したんだ。よろしくな」
「くっそー! 水に潜れねえ!」「水に浮いたまま手で掻くこともできねえー!」
これで船に侵入しようとした連中を確保だ。
「お仕事終了だー!」
僕が声を掛けたら、サルシュが背後の船を見ながら、尻尾を振った。
「いやあ、残念ながら」
「なんだと!? まだいるの!?」
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