第122話 港湾警備と夜釣り
「あっ、またお前らか」
「お前らとはご挨拶だな。ぶらぶらしてるシルバー級なんざ俺らしかいねえだろうが」
「そうよそうよ! それに割と久しぶりじゃない? ナザル、あんた追手から逃れて地下で農作業してたらしいじゃない!」
久々に再会したバンキンとキャロティだが、何も変わっていない。
今回もこの三人で依頼を受けるのか……と思いきや。
「はじめまして。どうぞよろしく……」
パッと見では性別が分からない人物がおり、シルバー級のギルド証をぶら下げている。
性別が分からないのも当然。
灰色の肌をして、体の大きさならバンキンに匹敵しようかという巨躯。
ずるりと長い尻尾が続いている。
「太陽神の司祭をやっています、サルシュと申します」
「あ、こりゃご丁寧に。ナザルです。油使いです」
「お噂はかねがね。あのパスタとやら言う料理、大変美味でございます」
「気に入っていただけたなら幸いだ。あの、サルシュさん、あなた、リザードマン?」
「いかにもさようにございます」
リザードマンはかつて変温動物だった頃の記憶によって、太陽を崇める。
自然と、太陽の神であり、至高神バルガイヤーの信徒となるのだ。
この世界、亜人に対する差別感情みたいなのが恐ろしく薄い。
なので、宗教なんかもそれこそ、キャロティみたいなウェアラビットからリップルみたいなハーフエルフ、ドワーフにコボルドに、彼みたいなリザードマンがいたりもするのだ。
司祭ということは、それなりの地位だ。
こんな人がアーランにいたんだなあ。
そしてなぜ僕らと一緒に依頼を受けたんだ。
「実は神殿に司教殿がしばらくおられまして。代行を務めておりましたワタクシめが、しばらく休んで来るがいいと暇をいただき」
「ほうほう。司教は外に出てたんだ」
「プラチナ級冒険者をなさっておられます。見た目は年若いのですが、神の加護によって不老となっておられますのでワタクシめより年上です」
「この国の神殿もややこしいことになってるなあ」
ともかく、暇になった司祭サルシュは、冒険者となった。
名ばかりの司祭ではなく、本当に腕一本で司祭まで上り詰めたリザードマンだ。
圧倒的な技を見せつけて、アイアン級からカッパー級、そしてシルバー級まで半年で上り詰めた。
つまり、僕がギルドを留守にしている間にデビューして、僕が料理関係でわあわあやっている間にシルバー級になったということになる。
実力者なのだが、リザードマンの司祭で、お務めもあるので恒常的にパーティ参加ができないということで、僕らのお仲間となったわけだ。
ますます独立愚連隊のようになってきたな……。
周りの冒険者たちも、僕ら四人からちょっと距離を取っている。
なんだなんだ。もっとフレンドリーに接触してきていいんだぞ!
「皆さんお集まりですね!」
エリィが声を掛けてきた。
向こうの酒場で、リップルの隣りに座っているコゲタが反応したが、これはお仕事だからね。
コゲタは呼ばれてないからね。
「今回のお仕事ですが、時間は夜。貴重品の運び出しが終わるまでの一晩の間、港湾部の見張りをお願いします。どうしても盗賊の類が出ますので……」
ここでバンキンが挙手。
「あのよ、ギルドに言って止めさせりゃいいじゃねえか」
「外国の船はこの国の盗賊ギルドにお金を払っていませんからねえ……。みかじめ料を払うにしても、手続きをしている間を惜しんで荷物をお金にしようと考えている商人ばかりです。それに文化の違いもありますし」
ははあ、海の向こうには冒険者ギルドや盗賊ギルドというものが無いらしい。
概念が分からないのだな。
そこで、国がお金を出して冒険者ギルドに警備依頼を出していると。
「今夜辺りが正念場だと思われますので」
「船が到着した翌日の夜だからね。確かに明日には荷物はだいたい運び出されてるだろうねえ」
「そういうことです。さすがナザルさん!」
キャロティが僕とエリィを交互に見た。
「なんかエリィから発情期のにおいがすんだけど」
「うわあー」
「してません! してません!!」
キャロティ、ノンデリカシー!
ウェアラビットはまあ、年中発情期とも言われる生き物だからな。人間だってそうだし、似たようなものだ……。
「よし、じゃあ行こう行こう」
「おっ、ナザルが逃げるように出立したぞ」
「ご主人~」
「コボルドがついてきましたが。ははあ、ナザルさんのおともですね?」
「そうなのよー。そんで、あたしの友達! ねーコゲタ!」
「キャロティ、ともだち!」
後ろでイェーイ、とキャロティとコゲタがタッチしているのが聞こえる。
コゲタも友達が増えたなあ!
とてもいいことだ。
なお、コゲタは冒険者ではないので人数には数えない。
だが、コゲタの耳と鼻はとても優れているのだ。
連れて行かない選択肢はない。
というか、コゲタと一緒に夜の海を眺めるのもオツではないか、と思う僕は、今回の依頼大歓迎なのだ。
「おいナザル、これ、これ」
「バンキン、盾の裏に隠してるそいつは……釣り竿じゃないか……!!」
「そういうこと。交代交代で見回りだろ? 暇な時は釣りでもやろうじゃねえか」
「いいねいいね」
「釣り!? あたしはなかなか得意よ! 連れなかったらすぐに場所変えちゃうんだから!」
「コゲタ、つりしたことない!」
「ハハハ、賑やかですねえ」
こうして僕ら五人は港へ。
夜まで軽く眠って、見回りの仕事をやるのだ。
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