第121話 餃子実食
焼き餃子がずらりと並び、これをみんなフォークで突き刺す。
ああ、箸が欲しい。
だが、僕ももう箸を使わなくなって久しいから、今は使えなくなっているかも知れないな。
専用のソースは、ラー油とお酢の入った醤油をイメージしているが……。
舐めてみるとイメージ違うな。
酸味がメインでピリ辛、ちょっとしょっぱい。
構成要素は近い……。
コゲタのはそのまま塩をちょっと振って食べてもらう。
そうしたら、真っ先にパクパクし始めた。
「おいしー!」
コゲタニコニコ。
僕に対する圧倒的信頼感があるからな!
美味しいだろう美味しいだろう。
「美味しいんですね……? どれどれ……」
「初めてのものを食う時は、常にちょっと緊張があるよな」
なんか言いながらみんなが食べ始める。
「あっ、普通に美味しい」
普通ってなんだエリィ。
「生地をこんな風にパリパリに焼いて、反対はもっちりしているのは新鮮なんですけど……。味はなんだか馴染のある感じというか……。でも、食感がパリッ、もちっとしててですね、中身がじゅわーっと美味しいスープが溢れてくるみたいな」
「小籠包みたいな感想だ……! というか食レポ上手いなあエリィ」
「お褒めいただきありがとうございます。ちゃんとニンニク抜きですよね? 私、このあとちょっと戻って仕事やるんですから」
「仕事抜け出してきたのかあ!」
「わっはっは、すっかり狙われてるなナザル! もう身を固めたらどうだ? いや、しかしこのギョウザというやつは美味いな。酒が欲しくなる味だ……。生地と肉と野菜で、これだけで全てが詰まってるじゃないか。凄いなこれは。これだけ食ってればいいぞ」
「カルボナーラのように、中毒性のある美味しさではないのがいいね。彼女の言うように馴染みのある味わいだ。そこにニンニクが加わり、この酸味と辛味のあるソースが組み合わさってちょうどいい美味しさになる。うん、どんどん食べたくなる味だ。酒に合わせるのはいいかも知れないな」
シャザクにも好評。
ダイフク氏はこれをペロッと飲み込み、プスーっと鼻から湯気を吹いた。
「素晴らしい喉越しですな。わしは好きですよ」
「アビサルワンズは噛んで味わったりしないの?」
「ハンバーガーやピザは噛んで食べないと引っかかりますな。ですがちょうどいい大きさに噛み切ったらそのまま丸呑みです」
不思議な種族もいるものだ……。
だが、ギョウザは大変好評。
カルボナーラの如き傾国の美味さではない分、これはアーラン中に広がっていきそうだ。
「早速俺も作って客に出すわ。ソースはちょっと手間が掛かるな。酢とピーカラと塩を適当に混ぜとけばいいだろう」
「僕もその辺りの配分は良く分からないから、プロの料理人が自由に考えておいてくれ」
「おうおう。また新しいメニューの提供ありがとうな。お陰でうちは今、下町で一番売れてる店なんだ」
「えっ、下町で売れてるなら、こんな時間に閉めてていいのか? ずっと開けておいた方がいいだろ」
「そんなん俺の体が壊れるだろ!! 俺は楽をしながらほどほどの感じで稼ぎたいんだよ! 常に満員だぞうちは。そんなもんは飯時だけで十分だ」
いいスタンスだ。
そうありたいもんだよなあ。
この世界の人たちは、必死にあくせく働かない。
遺跡の中で頑張ってる農夫の人たちや、兵士の方がずっと働いているだろう。
冒険中の冒険者もか。
一般市民は本当に無理しない感じで働く。
その後、みんなで餃子の山を平らげた後、何を入れたらいい、どういうソースがいい、という話をしたのだった。
アレンジしまくれるのが餃子のいいところだよな。
これならば、すぐに餃子はアーラン中に広がってくれることだろう。
アイデア満載の新作餃子、楽しみにしているぜ!
「はい、私達はギルドに戻りますよナザルさん」
「えっ、僕も戻るの?」
「当然です! 最近全然冒険してないそうじゃないですか! それにシルバー級のお仕事だって待ってるんですからね。そこのところのお話だけ聞いて下さい」
「あっはい」
そうか、ここ最近、ずっと料理や畑仕事ばかりしてるなと思っていたら……。
よくよく考えたら、僕は冒険者だったではないか。
久々にまた仕事をするか……。
「よし、行くぞコゲター」
「あい!」
お腹いっぱいになったらしいコゲタが元気に立ち上がった。
おお、用意した分を全部食べきったな!
「いや、美味しかったよ。これ、作り方を覚えたから殿下のところでも作って差し上げないとな。ニンニク入りとニンニクなしを同時に食べてみたけれど、私はニンニク入りが好きだな。だが、口臭は確かに問題だ。ニンニクなしはこう……ソースを工夫することで美味しくなりそうだな」
シャザクはこれから王城に戻るらしい。
餃子は簡単だから、ぜひデュオス殿下にも食べさせてあげてほしい。
「喉越しはどっちも同じでしたな」
「そりゃあそうだろう」
ダイフク氏がとぼけた事を言った。
彼は概ね満足した様子で、また船の方に帰るらしい。
「船にわしの部屋がありますからな。あそこを宿にしながら、また船が出るまでの間はちょこちょこ顔を出しますわ」
「ああ、いつでもギルドに遊びに来てくれ」
「冒険者ギルドは遊ぶところじゃないんですけど?」
「ご主人~、コゲタ眠くなってきたー」
大変賑やかだ。
僕らはワイワイと騒ぎながらギルボウの店を後にしたのだった。
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