第120話 餃子ファイト
この場に、ずらりと集まった錚々(そうそう)たるメンバー。
僕、料理人のギルボウ、第二王子の使いシャザク、遠い国から来たアビサルワンズの操舵手ダイフク、ギルド受付嬢エリィ、そしてうちの犬コゲタ。
「なんでシャザクとエリィがいるの……?」
「美味しそうなものを食べられる気配がしたからね。絶対に来なければならないと思って全力で城から戻ってきた」
「シャザク、爵位持ちだよね? 自分の足で走ってきたの?」
「一番早くて確実、そして食べる口が増えない。絶対にギルボウの店にいると睨んで来たんだ」
「はい! はーい! 私は最近活躍が目覚ましいナザルさんの担当受付嬢としてですね」
エリィ!!
なんか僕相手に既成事実を作ろうと画策していないかい!?
恐ろしい恐ろしい……。
思った以上に人数が増えてしまった。
だが、今回作る料理は人が増えても問題ないタイプだ。
「えー、初回は僕が作ります。ギルボウなら一瞬でマスターできると思うが」
「なにっ、そんな簡単な料理なのか? そんなもんが美味いのか? いやいや、簡単な料理ほど美味かったりするんだよな。俺が想像もできない簡単な料理……むむっ!! 分かったぞ!」
「察しがいいなギルボウ」
「私もだいたい分かった」
「シャザクは地頭がいいからなあ」
「私はさっぱり分かりません!! 説明を求めます!!」
「あ、わしも」
エリィとダイフク氏が挙手した。
二人のために説明しましょう。
「ここ最近アーランに増えた食材を使って作るんだ。だから、誰も見たことがない料理になる。なんで僕がそれを知っているかは聞かないでくれると嬉しい」
「まあ謎めいた男というのは魅力的ですからね」
エリィは本格的に僕を狙っていないかい?
「喉越しはどんなもので……」
「あー、カエル人間のダイフク氏は丸呑みスタイルか。ちょっと冷ましてから呑んでもらうと……」
「なるほど、了解。わしはそういうのも慣れているので大丈夫ですぞ」
理解があるカエルの人、ありがたい。
彼はあまりにも堂々としているので、アーランには一人もいないカエル人間であるというのに、誰もが「あれっ、こういう人普通にいたっけ? いたのかな?」と思わせて一瞬で溶け込んでしまうのだ。
人間、堂々とした態度に弱い。
「じゃあ作って行こうと思うんですけどね。まずこのパスタ生地を小さくちぎり、伸ばし棒で平たく伸ばし……」
「一個一個がそんな小さいのか!? そうか、一口サイズってわけだな。なるほどなあ」
ギルボウは既に察しているな。
コゲタは専用の子供用椅子に座り、尻尾を振りながら楽しみそうに待っている。
美味しいにんにく抜き餃子作ってやるからな。
「ここにひき肉とざく切り野菜とにんにくを混ぜ込んだタネを入れて……。コゲタ用はにんにく抜きだ。ハーブで代用する」
「ナザルさん、にんにくが入っているとどうなるんですか?」
「いい質問だねエリィ。あまりにんにくを食べていないと見える。にんにくは素晴らしい薬味であり、消毒作用によって適量なら体にもいい。だが、食べた後しばらく息が臭くなる」
「私もにんにく抜きでお願いします」
2人分がハーブ餃子になった。
「タネを薄く伸ばしたパスタ生地……これを皮と称する。それで包んで、指に煮沸した湯冷ましを付けて周囲を濡らし、これでくっつけて波々にして固定」
「ほほー」
「なるほど、これは作るのも楽しい」
「やってみたいですね!」
「コゲタも!」
「そのまま丸呑みいけますね」
「オブリーオイルを垂らして熱しておいたところに、こう!」
じゅわーっと焼ける。
炭水化物が熱されるいい香りが漂う。
「ほどよく焼き跡がついたところに水を投入。蓋をして……蒸し焼きにする!」
「おいおいおい! ナザル、お前随分高度な料理をしてるじゃねえか!! 焼くだけじゃない、蒸すだけじゃない、蒸し焼きだと!? 確かに手順は単純だが、なるほど、こりゃあうめえぞ」
「分かるのかギルボウ!」
おっ、解説のギルボウに聞き役のシャザクが!
「ああ。生地で包んだひき肉は、火に触れないまま熱される。つまりだ。肉から溢れてくる旨味の汁はあの生地の中に溜まったままってことだ! こいつは、素材を余さず食い切るとんでもねえ料理だぞ……!!」
パイ皮包みみたいな料理はあるのだ。
だが、それは強い火力で焼くので、パサっとしたものになる。
さらにサイズが大きいのでムラも心配になるだろう。
そこで餃子の一口サイズですよ……。
僕の前世の日本とは違い、料理技術が広まっておらず、誰でも美味しくできる機械なんかは存在もしない世界だ。
絶対に料理の味は安定しなくなる。
だが!
餃子なら別!!
かなり安定する!!
サイズも小さいから、餃子の中で食の世界を完結させられるのだ!
焼いている間に、塩と酢とピーカラを混ぜ合わせたソースを用意しておく。
「ナザル、お前、いつの間にそこまでの調理技術を……」
「僕も生活に余裕ができたからね。宿の厨房を借りて、様々な実験を行っていたんだ……その完成形が……これだあ!!」
蓋を取ると、水は完全に水蒸気となり、十分に餃子を蒸らして完成させている。
美味さは香りごと生地の中に閉じ込め、焼き色がついた餃子はプリップリに透き通る美しさ。
「お召し上がりください」
「す、素敵」
なんかエリィから強烈な視線を感じてしまうのだった。
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