表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~  作者: あけちともあき
36・第二王子一家、視察に来る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/337

第106話 約束の日だ

 冬場だというのに、第二王子はやる気満々らしい。

 使者を通じて、「以前の約束をそろそろ果たせ」と催促してきた。

 僕にとって大切なパトロンの言うことだ。


 その願いはかなえねばなるまい。


 さて、第二王子の願いとは一体何か?

 それは、彼が昨今享受している美食。

 そのルーツを辿る、遺跡内視察である。


 アーランの王族は大変過保護にされて暮らしており、毒殺を恐れて必ず毒見役が付く。

 そのために、毒見が終わった後の冷めた料理ばかり食べていて、美味しいものを口にできていないのだ。

 そこに現れた僕が、第二王子デュオスに美食を提供した。


 世の中に失望している風だったデュオス殿下は、一気に人生の喜びを取り戻し……。

 奥方とお嬢さんを巻き込んで、僕の料理を楽しみにしながら日々を過ごしているというわけだ。


 そんな彼らが、美食のルーツを知りたいと思うことは自然だろう。

 数ヶ月前に、僕が口約束もしていたしな。

 契約書を作っているわけでもないのに、多忙な第二王子がよくぞそんなことを覚えていたものだ……。


 めちゃくちゃ楽しみにしてたな?


 使者の人は、僕が準備をしている間、身を屈ませてコゲタとタッチなどをしている。

 仲良くなったなあ!

 まあ、付き合いも長くなってきたもんね。


「お待たせしました。じゃあ行きましょうか」


「はい! 殿下も奥方様も姫様も、皆様今回の視察を大変楽しみにしておられました。そして今日行くぞ、行くぞ、となって私が派遣されてきたわけで」


 辛抱たまらなくなったわけか!

 そりゃあ仕方ない。


 ということで、僕はコゲタを連れて、使者と一緒に王城へ向かった。

 門番もすっかり僕の顔を覚えている。


「あっ、油使いの人。どうぞどうぞ」


 顔パスだ。

 いざ通過するぞという時に、門番がスススっと近づいてきた。


「今日は何か持ってきてたりする……?」 


 僕はスッと彼らの懐に賄賂を忍ばせた。

 オブリーオイルでカリッカリに揚げて、塩とハーブをまぶしたパスタだ。


 門番たちはちょっとニヤけて、人目を盗んでカリッと食べ始める。


「うめー」


「なんですかな?」


 使者の人が振り返ったので、門番たちはそっぽを向いて「なんでもござらん」とかごまかした。

 僕はこうしてちょっとずつおやつを差し入れすることで、門番たちの懐柔に成功しているのだ。


 さて、第二王子邸に到着するや否や、扉がバーンと開け放たれたのだった。

 そこには、今から旅に出るぞ!! という衣装の第二王子一家がいる。


「さあ行くぞナザル! 案内せよ!!」


「殿下話が早いですねえ」


「私はもう待っていられないのだ! さあ行くぞ行くぞ!」


 使いの人も流石に慌てる。


「あーっお待ち下さい殿下!! せめて護衛を! 護衛のものを……! 実はかのゴールド級パーティ、グローリーホビーズのリーダーという冒険者が仕事を引き受けてくれまして」


「なるほど、それは心強い……なにっ、グローリーホビーズ!?」


 グローリーホビーズというと、シズマのパーティだな。

 そこのリーダーは、あの苦労人っぽい若い男だ。

 育ちが良さそうな感じで、変なシズマも奔放な感じのアーティも受け入れる度量がありそうな男だった。


 だが、第二王子の反応がなんだかちょっと変なのだ。

 ソワソワし始めた。

 奥方もソワソワしている。


 なんだなんだ?


 少しして、王城の門をくぐって彼が現れた。

 焦げ茶の髪に碧眼の、育ちの良さそうな美青年だ。


 あれ?

 呼ばれていたとは言え、ずいぶんスルッと門をくぐってきたな。

 門番たちがなんか通り過ぎた後も頭を下げてる。


 なんだ……?

 一介のゴールド級冒険者ではないのか?


「お呼びに与り参上いたしました。ゴールド級冒険者のツインと申します」


 ツインって名前だったのか。

 彼は完璧な礼儀作法で挨拶をした。


「お、おお……! そうか、大儀である」


「よ、よろしくね。……立派になって……」


 なんか奥方が涙ぐんでるんだが?

 コゲタが、ツインと殿下と奥方をキョロキョロと見た後、僕の服の裾を引っ張った。


「なんだい」


「にてるにおいがする!」


「あっ」


 僕は察したぞ。

 デュオス殿下は、男児がいたのだった。

 だが、それは政争のもとになるからと外に出した。


 神殿に預けたりしたそうなのだが、それがもしかしてツインなのではないか?

 なーるほど、育ちが良さそうなわけだ。

 本当に育ちが最高にいいんだもんな。


 ということで。

 人間関係のドラマをはらみつつ、今回の視察はスタートするのだった。


 お嬢さんがトコトコトコっと僕の横まで歩いてきて、


「なんだかお父様もお母様も変だわ。あの冒険者の方、昔からのお知り合いなのかしら」


 ははあ、ツインが預けられた頃には、まだお嬢さんは物心ついてなかったんだな?

 見た感じ、彼女はローティーンくらい。

 ツインは二十歳になったくらいであろう。


「世の中色々あるもんですよお嬢様。それよりも、農場では眼の前でミルクを絞り、これを飲むことができてですね」


「搾りたてのミルク……!? そ、そっか……! 伝説上の存在だと思っていたわ! そうよね、絞らなければミルクにならないのだから、搾りたてのミルクは存在するはずだわ! 楽しみ……!!」


 一瞬で食い気に支配されるお嬢さんなのだった。



 

お読みいただきありがとうございます。

面白いと感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そういうこともあるか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ