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麗戦場  作者: 谷山渓谷
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精巧に切り抜かれた黒の石畳、その旧市街地を抜ければやがてかの有名な噴水が見えてくる。

或るイタリアの、くすんだ白とオレンジがまたそれを際立たせる壮麗と化し、その広場に鎮座するは世界が認めた遺産、トレビの泉だ。

今まで歩いてきた通りを振り返れば、昔ながらのアンティークで泉との一体感が顕著に表れ、パノラマとして出来上がる一つの絵画を成す。

太陽の高く上った現在、その場には僅かな影も許されず、降り立つ光にどこもかしこも満遍なく照らされて、この時間しか見ることのできない光満ちる広場を楽しむのもまた一興だろう。

そうでなくとも、黒の石畳を影で映すその光景もこの遺産を楽しむ一つの形として満ちる光を一身に受ける今の広場と負けず劣らず、甲乙つけがたいものであることは誰の目から見ても紛れもない事実だ。

いつもであれば時間によってさまざまに表情を変える泉を見ようと海外からの観光客で本来、静かであるはずのこの風景も様々な言葉の飛び交う喧噪でごった返しになっているところなのだが…… 。

最近はその静けさを取り戻し、静寂のひと時を求めていた近隣に住む者たちは今だとばかりにその静かなひと時を楽しむ。

などという事はなかったようである。

それもそのはずだ。いつも客で混沌とするこの広場、その客がいないのには生半可でない理由というものがある。

そうでなければこの近隣住民の事を考慮した地域の議員や警察が住民たちのために観光客が入れない時間でも作ったというのか。


世界遺産を売りにしているこの地域周辺において、議員や警察がそんな人道的が過ぎる措置をとる方が生半可でない理由があるというものだろう。

そんな観光客がまばらになった、いや、まばらというより人一人いないこの泉のほとりでソフィルは右手で十字を描く。

イタリアでは珍しいプラチナブロンドの髪に、まるで可憐を具現化したように精緻された一つ一つの顔のパーツ。その可憐の中に確かな芯を併せ持つ、おおよそ十五らしからぬその立ち姿や見るに、おそらく風貌だけでなく心までもそれに相応しい人間なのだという事は遠目からでも気づけるかもしれない。

また、そんな可憐を凝縮した少女が着ている少し厚手のワンピースやその手に提げる鞄は名立たるどこかのブランド品だろうか。

その予想は全くもって大外れなのだが、ソフィルの佇まいを見ていると不思議と良い物を身に着けているように見えてしまう。

颯爽、雑誌の表紙や衣服の宣伝にはよく分からない言葉の数々よりも、ソフィルの着る姿一枚。それのみで大きく飾った方が衣服の良さも存分に伝わるというものだろう。

ここに観光客がいたとするならばその可憐で思わず、泉の中で鎮座する彫刻達と間違ってしまう事も必至であると言える。

観光客がいれば、だが。

歩く彫刻品さながらのソフィルを、今の泉の周辺にはあの美しい彫刻達と間違うものはおろか、残飯などをつけ狙う鳥達の鳴き声すらもしない。

あるのはいつも通りに流れ出る泉の水の、そのせせらぎだけだ。


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