婚約破棄してください!~リリアージュ侯爵令嬢のその後~
突っ込みどころが多々あるかと思いますが、ゆるーくかるーくお読みいただければと思います
王立ステリア学院入学前に高熱を出し、自分が、乙女ゲーム「君しか見えない~甘やかな眼差しに秘める恋心~」に転生してしまったとわかったリリアージュ。このままでは、ヒロインに婚約者であるラインハルト王子を取られ、婚約破棄され、国外追放になる! 大変だ! 国外追放はいやだ、どうぜ捨てられるなら、早めにと画策したが、失敗。なぜなら、今生きる世界は乙女ゲームの世界に似ているが、似ているだけ。イリーナはリリアージュの婚約者であるラインハルト王子に思いを寄せてなかったし、ラインハルト王子もしかり。実はすべて、自分の勘違い空回りだった。その空回り、ラインハルト王子からの嫌われ早期婚約破棄計画の代償として、リリアージュはお城でじっくり、ラインハルト王子の愛を実感することになったのである(←今ここ)
リリアージュのラインハルト王子からの嫌われ早期婚約破棄計画がとん挫して、3日後。
なんとかラインハルト王子の寵愛から解放されたリリアージュは、学院の空き部屋にて、イリーナと会合を持つことができた。
放課後、二人きりの教室。2つの机をくっつけて、その上にお菓子を広げて、さあ、ガールズトーク開始である。
口火を切ったのは、イリーナだった。まずは、リリアージュが一番気になっていた、イリーナの意中の男性についてだ。
「私が好きなのは、養護教諭のシリーさんよ! 渋くて素敵なの!」
「まあ!」
頬を染めて、語る彼女は文句なく可愛い。同時に安心する。本当にラインハルト王子狙いではなかったのだと。そしてもう一つ気になっていた点をリリアージュは、イリーナに聞いてみた。
それは、ラインハルト王子に近づいたのは、彼のヤンデレ化が見たかったからという点についてである。
「ラインハルト殿下がヤンデレ化するって、そんな内容、、ゲームにあったかしら?」
リリアージュは首を傾げた。
「あー、やっぱり知らなかったんだね。うん! ではお話しましょう!」
イリーナが机の上のお菓子を摘みながら、器用に胸を張る。
彼女が話してくれた内容、それは「君甘」の2が出ていたという驚くべき事実だった。パート2は設定そのままに、ヒロインが選ばなかったルートでは、傷心の攻略対象たる男子たちをその婚約者が優しく慰め、その広い愛に癒された攻略対象たる男子たちが、自分たちの婚約者に執着、ヤンデレと化していくという18禁スレスレのお話がサイドストーリーで展開し、パート1よりも人気が出たとのことだった。
「私、ラインハルト王子と婚約者のリリアージュのサイドストーリーを攻略する前に、死んじゃったみたいで! 王道だから、楽しみは最後にとっておこうと思ったのがいけなかったわ!」
イリーナは本当に悔しそうに、ぼりっとクッキーをかじる。
「だから、どうしても見たかったの! リリアージュ様を溺愛し、ラインハルト王子がヤンデレ化する姿を!」
だから、リリアージュが誤解するように、ラインハルト王子に近づき、リリアージュがラインハルト王子の気持ちに不安を持てば、ラインハルト王子のヤンデレが見れる!と頑張ったと。
「貴女ね‥‥‥」
はなはだ迷惑な事である。そのおかげで、リリアージュは大変な目にあったのだ。
「学院に入学して、ラインハルト殿下のリリアージュ様への溺愛を見たら、私が王子を狙っていたとしても諦めるって! そのくらい、ラインハルト殿下、リリアージュ様が大好きだって、周りからしたら、わかるから」
「そ、そう?」
「そうだよ! わからなかったのは、リリアージュ様だけだって! けど、今回の件で、実感できたんじゃない? いやあ、よかったね~」
「何、綺麗にまとめているのかしら? 私がこの3日間どんなに大変な目にあったと思っているのかしら?」
あまりにあっけらかんとしているイリーナを、リリアージュはじとりと見つめる。
「どんな目にあったの?」
聞き返されて、リリアージュの顔にぼあっと血が上る。
「もう! 言わないわ!」
言える訳ない。
「あはは。ごめんごめん! これ以上は野暮だよね。先日の殿下の様子だけで、満足しとく。しかし、殿下のあんな眼差し、自分が向けられたら、マジビビる。逃げだしたくなるね。リリアージュ様限定でよかった。ああでも、スクショしたかった」
反省てるのか、してないのか。彼女の行動に振り回されたリリアージュはたまったものではない。さすがヒロインというべきか。結構図太い。
「でも、私の行動もあっただろうけど、リリアージュ様、最初から思い込んでたでしょ? ラインハルト殿下は私に惹かれるって。パート1でも別ルート、沢山あったのに。私ばかりのせいじゃないよう。この世界だって、まんまゲームの世界じゃないじゃない。現にラインハルト殿下はヒロインの私には見向きもせず、リリアージュ様を溺愛しまくりじゃん。その殿下を信じなかったリリアージュ様も悪いでしょ?」
そういわれてしまえば、ぐうの音もでない。
思わず、うらめしげな顔をしたら、また抱き着かれた。
「あーそのウルウル目! 本当リリー様、可愛い!」
「は、放してくださいまし!」
「もう! その顔がやばいって! あー、ラインハルト殿下も苦労するな」
「わかっているなら放せ」
いつのまに来たのか、ラインハルトがべりっとイリーナを引きはがす。
「ラインハルト様!」
「リリー」
思わず上げた彼女の声に、答えるラインハルトの声の甘いこと。
「ほら、まあ。よかったじゃない。殿下の気持ちがわかって! 今回だって不安だったからの行動でしょ! まあ、私はリリー様の嫌がらせ、全然堪えてなかったけどね。可愛いもんだったし」
「なに? まだ足りなかったか。わかった、リリー、城に帰ろう」
ラインハルトは自分の都合のいい部分だけ拾い、リリーナの手首を掴む。
「イリーナ様!」
やっと城から出られたのに。どうしてくれる。
けれど、イリーナが言った事は、本当だった。
リリアージュは不安だったのだ。ラインハルト王子が離れていってしまうのではと。だから、傷つく前に、自分から離れようとした。
だけど、ここはゲームの世界とは、似て非なる世界で。
ラインハルトに手を引かれ、その彼の背中を見てリリアージュは思う。
ああ、婚約破棄されなくてよかった。大好きなラインハルト王子とこれからもずっと一緒にいられるんだと。
ちなみに、ヒロインイリーナの言動の改善は、全く見られないようである。
<本当に終わり>
ここまでお読みいただきありがとうございました。
蛇足だったかなあと思いつつ、楽しく書いてしまいました(*^^*)
ただいま異世界もので「ちょっとお菓子なクローディア~侯爵さま、無茶ぶりはおよしになってくださいませ!~」を連載中です。よろしければ、そちらもお読みいただければ、とても嬉しいです!!