『メイドさんは敵に回すな』
「そこまでだよ」
メイドさんが指を鳴らそうとした瞬間、人集りから飛び出して戦闘を中断させた私に、メイドさんとグレイの視線が向けられる。
「なんだ、クソメイドの連れか? 悪いが取り込み中だぜ。痛い目に遭いたくなかったら、そこでおとなしく見ていろよ」
最初に口を開いたのは、グレイだった。
呑気なことに、自分が殺されそうになっていることに気づいてないらしい。
「命を救ってもらった相手に、そんな態度を取っちゃうんだ」
「突然現れたと思ったら寝惚けたこと言いやがって……うお、なんだあれは――!?」
私が指を差して剣の存在を教えてあげると、ようやく気づいたグレイが驚愕の声を上げた。
「さっきから狙ってたよ? 私が言わなかったら串刺しにされてたね」
「ひえ……」
恐怖を覚えたのか、腰を抜かすグレイ。
攻撃を邪魔されて不満に思ったのか、メイドさんが私に近づいてくる。
「貴方は誰ですか。粛正の邪魔しないでください」
「私は手を出したくなかったけど、相棒に頼まれてね。悪いけど手を引いてくれない?」
「彼は私のメイド服を汚しました。メイドにとって、家事以外で服を汚すことは一生の恥です。殺さなければ、気が済みません」
「それだと殺人行為で牢屋行きじゃない? 顔面パンチくらいで済ませてあげない?」
私が提案すると、メイドさんはしばらく考える素振りを見せ、溜め息を吐きながら上空に顕現させた5本の剣を消滅させた。
「仕方ありませんね。牢屋行きになったら冒険者カードを剥奪されますし、顔面パンチで許してあげましょうか」
「うんうん」
メイドさんは腕を捲ると、グレイに近づいていく。
そして、深く息を吸い込み――
「メイド服の恨みです!! 消え失せなさい!! メイドパンチ!!」
「ぐあああああっ!!!」
メイドさんから撃ち出された拳が、グレイの顔面を捉える。
きちんと体重が乗っており、威力は申し分ない。顔面を殴られたグレイは勢いよく吹き飛ばされていき、数秒後には見えなくなってしまった。
「ふう……」
メイドさんは満足したのか、ポケットから取り出した紺色のハンカチで汗を拭う。
「ナイスパンチ!!」
「お褒めに頂き、光栄の極みです」
私に褒められ、メイドさんが照れくさそうにしていると、広場の見物客だけでなく騒ぎを聞きつけてきた冒険者協会の職員からも拍手喝采が湧き起こった。
◇
「今夜はアタシの奢りよおぉぉぉぉぉん♡ みんな~♡ 好きなだけ頼んでちょうだぁぁぁぁぁい♡」
グレイ騒動が終わると、酒場では祝勝会が開催されていた。
気性が荒いグレイには冒険者協会も手を焼いていたようで、祝いとして酒場の大将が冒険者たちに無料で酒と料理を振る舞ってくれた。
グレイと同じく2メートルを超える高身長。筋肉もムキムキ。黒髪のオールバックという、優れた容姿を持つ酒場の大将だが、とにかく口調と服装が個性的すぎる。ハート模様の入ったピンク色のエプロンを身に纏い、猫模様のスリッパを履いている。
「「「うおおおおおおおっ!!!」」」
飲食が無料になったことで――
冒険者たちは、飲酒対決したり、大食い対決したり、服を脱いで自慢の筋肉を見せ合ったり、建物が震えるほど盛り上がっている。
「凄いねえ、盛り上がりすぎて建物が震えてるよ……」
私が料理を食べながら飲酒対決を眺めていると、皿に山盛りの料理を乗せたアメルが相席してきた。
「私はこれくらい盛り上がってくれたほうが楽しくて好きだな。とにかく私の故郷は退屈だったからさ」
「それじゃあ、これからもっと楽しまないとね。たくさん冒険して、たくさんごはん食べて、たくさん遊んで、たくさん仲間を集めてさ、最高の人生を送ろうよ」
「うん」
私は笑顔で頷くと、ソースがたっぷり付けられたハンバーグを口に入れる。
人間界の料理は、天界の料理とは比べ物にならないほど美味しくて無限に食べられそう。天使たちにも食べさせてあげたいね。
「よろしければ、相席しても?」
絶品ハンバーグを味わっていると、女性に話しかけられた。
正体を確認すると、グレイを撃退したメイドさんだった。皿にはアメル以上の料理が乗せられており、アメルが目を丸くしている。
「いいよ、遠慮なく座ってよ」
「ありがとうございます。祝勝会、凄く盛り上がっていますね」
「うん、君がグレイを撃退してくれたからね。それにしても、すごく洗練された剣魔法だね。あんなピンポイントで剣を作成できるなんて」
「なんと驚きました。あれだけで私の魔法属性を見破るなんて。もしかして、上級冒険者の方ですか?」
「冒険者には今日なったばかりだよ」
「今日なったばかりで……失礼ですが、冒険者になられる前はどうされていたのですか? 素性の詮索はマナー違反ですが、どうしても気になって……」
「国を守るために戦っていたよ。事情があって、詳しくは言えないけどね」
「……ありがとうございます」
テーブルに料理を置くと、メイドさんが頭を下げてきた。
「気にしなくていいよ。自己紹介が遅れたけど、私はカレン。隣でパスタを頬張っているのはアメルだよ。アメルとはチームを組んでいるんだ」
「もごもご!! もごもご!!」
アメルが必死に何かを伝えようとしてくるが、口いっぱいに食べ物を詰め込んでいるせいで微塵も理解できない。
「こちらこそ自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はサツキ。3日前に冒険者になったばかりの駆け出しです。気軽にサツキと呼んでください」
「それじゃあ、私のこともカレンでいいよ。駆け出し同士、これから仲良くしてくれると嬉しいな」
ワイワイと盛り上がる酒場で、私とサツキは握手を交わすのだった。
メイド服の恨みです!! 消え失せなさい!! メイドパンチ!!
いいですねえ……メイドパンチいいですねえ……身体が吹き飛ぶほどのパンチ、現実でくらったら即死ですけどね。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
みなさんに楽しんでいただけることが、執筆活動の原動力になっております!!
これからもよろしくお願いします!!




