『散りかけの花』
「魚を釣るつもりが、とびっきりのやべえもんを釣り上げちまったですよ。どうするですかこれ。カレンが戻ってきたとしてもどうにかなるんですかこれ」
力なく倒れている熾天使――クレアを見て、エーテルノは溜め息を吐く。
天界の序列6位――『天花』クレア。花を司る熾天使で、3界からは天界の初見殺し担当として恐れられている。
美しい容姿。温厚な性格をしているクレアだが、カレイアが関わってくると性格が180度変わってしまう。
カレイアに害を及ぼすと判断してしまえば、即座に殺しにかかってくる。天界に乗り込んだとき、エーテルノは不死であったことを後悔したくらい。
死なないと分かっていても、死ぬまで殺してくる。細切れになるまで切り刻んだり、ペースト状になるまですりつぶしたり、生きたまま内臓を抉り出したり、とにかくなんでもありのヤンデレ天使。
クレアの殺害基準は、カレイアに害を及ぼすか及ぼさないか。周りから見ればアメルとサツキは問題ないように思えてしまう。
――しかし、クレアの感じ方次第では殺害対象と成り得る。
「けふっ!!」
エーテルノが悩んでいた時である。
意識を失っていたクレアが飲んでいた海水を吐き出した。紫色の瞳を開き、しばらくするとよろめきながら立ち上がる。
「……」
1歩後退し、戦闘態勢に入るエーテルノ。どういうわけか、全身傷だらけ。顔には打撲痕。白いワンピースには血が滲んでいる。
弱っている今なら殺せるが、クレアを殺してしまえばカレイアが黙っていないだろう。
カレイア・アリア・クレアの3体は家族のような関係。家族を殺されたともなれば、エーテルノでもただではすまされない。
「貴方は……?」
「……」
クレアが口を開く。
エーテルノは黙ったまま、クレアを見つめる。
「貴方がわたくしを助けてくださったのですか」
「……」
「黙っていては分かりませんわ。貴方が助けてくださったのならお礼をしなくてはならないのですから」
「助けたのは私ですよ」
「まあ、やはりそうでしたか。お名前はなんとおっしゃるのですか。わたくしはクレアといいますの」
笑みを浮かべてくるクレアに、エーテルノは苦笑を浮かべる。
「私の顔、覚えてねえですか?」
「あら、どこかでお会いしたことがありまして?」
「そう、ですか。覚えてねえ、ですか」
「申し訳ございません。わたくしは人の顔を覚えることが不得意でございまして。よろしければ、お名前を教えていただけませんこと?」
首を傾げてくるクレアに、唇を噛み締めるエーテルノ。
「エーテルノ=イーリスですよ」
「エーテルノ様ですか、素敵なお名前ですわね。それで、どこでお会いしましたか」
悪気は無い。
クレアは本当に覚えていないだけである。
怒りの感情はあるが、クレアとの戦闘を避けるためには我慢するしかない。
「……いや、人違いだったですよ。
「そうでしたか」
クレアは天輪と白翼を消滅させると、白いワンピースに付いた砂を払い落とした。
「エーテルノ様、溺れていたわたくしを助けてくださったことにお礼を申し上げますわ。それでは、わたくしは人を捜さなければなりませんので――」
「おおっと、あぶねえですよ」
歩き出そうとしたクレアがふらりとよろけて膝を附く。エーテルノは素早く動いてクレアに肩を貸す。
「ありがとうございます……うぐ、拷問のダメージが残っていますわね」
「事情がありそうだったですからわざと気づかないようにしていたですけど、すっげえ怪我ですね。なにがあったんですか」
「お気になさらず」
「ハレスとソフィエルにやられたですか」
「どうしてその名を……!?」
エーテルノの発言に、驚愕の表情を浮かべるクレア。
「どうせ、カレイアの仇でも取ろうとしてハレスとソフィエルに挑みかかったんでしょうが、返り討ちにあってボロボロになって」
「……貴方、何者ですか。ハレスとソフィエルのことだけでなく、カレイア先輩のことまで知っているなんて」
鋭い目つきで睨んでくるクレアに、エーテルノは溜め息を吐く。
「250年前、天界に乗り込んできた人間を覚えているですか」
「250年前……」
「いや、思い出せよ。あんなことをしたのに忘れるなんてクソじゃねえですか。自分で言うのもなんですが、人間なのにやたらと強かったやつがいたじゃねえですか」
「あっ……」
クレアは思い出したのか、ポンと手を打つ。
「やっと思い出したですか。私はエーテルノ=イーリス。てめえに細切れになるまで切り刻まれたり、ペースト状になるまですりつぶされたり、生きたまま内臓を抉り出された可哀そうな美少女ですよ、このヤンデレ!!」
少し雑にクレアを砂浜に座らせると、エーテルノはびしっと指を差すのだった。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
痛めつけられたクレア。
そんな姿を見たら、カレンはどういう反応をするのでしょうか。
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