『王女と熾天使』
「復活だよ!!」
フローラに回復魔法をかけてもらうと、アメルは元気よくベッドから飛び起きた。
アメルを運び込んだのは、私たちが泊まることになっている客室。ふかふかのベッドが3台用意してあり、私たちの入浴中にメイドさんたちが準備してくれていたのだろう。
「よかったです、アメルが元気になって」
「ありがとう、フローラちゃんのおかげで元気いっぱいだよ。回復魔法って凄いんだねえ。さっきまでの頭痛がウソみたい」
「いえいえ、当然のことをしただけですよ。『色彩の集い』には命を救っていただいているのですから」
アメルに感謝され、嬉しそうな表情を浮かべるフローラ。
これは驚いた。回復魔法は傷の治療だけでなく湯あたりにまで効果あるのか。1家に1台フローラほしいね。
「ちょっと待ってほしいですよ。どういうことですか、フローラが命を救ってもらったっていうのは」
「どういうことは私のセリフですよ。エーテルノ、貴方はラスレア皇国に行っていたはずではありませんでしたか。城へ帰ったのなら、入浴の前に顔くらい出しなさい」
「山越えして身体冷え冷えだったんですから風呂に入るくらい許してほしいですよ。やばかったんですからね、霊峰ファウゲール。猛吹雪で死にかけたですよ」
「霊峰ファウゲールだって!? エーテルノ、霊峰ファウゲールに行っていたの!?」
霊峰ファウゲールという単語が聞こえ、私は会話に口を挟んでしまう。
「行ったですけど、なにかあるですかね」
「冒険者協会からの依頼で、私たちは霊峰ファウゲールに生息するカラミティスネークを討伐しないといけないんだ」
「討伐よりも見つけるほうが大変そうですね。吹雪ですし広いですし迷いやすいですし遭難したらやべえですよ」
「うえ~」
マンイートフラワーの時よりも、今回の依頼は苦労しそうである。
私は問題ないが、アメルとサツキは寒さに弱い。人間は体温が下がってしまうと凍死の危険性が出てくる。霊峰ファウゲールの地形に詳しい案内人がいれば、依頼をスムーズに進められるのだが――
「じゃあ、私が案内してやるですよ」
どうしようかと悩んでいた時、エーテルノが口を開いた。
「いいの!?」
山越えの達成者で、重力魔法の使い手でもあるエーテルノが付いてきてくれるのなら、心強いとかいうレベルじゃない。
「熾天使カレイアと冒険なんて、願ってもねえ機会じゃねえですか」
「ば、ばか……!!」
「やべ、これ言っちゃいけねえやつでしたか……?」
私・アメル・サツキ・エーテルノの視線が、一斉にフローラへと向けられる。
「エーテルノの口から、なにかとんでもないワードが聞こえてきました」
ぽつりと呟くフローラ。
「ごめん、やっちゃったですよ」
「事前に言っていなかった私も悪いけど、なんとなく察してよ……みんな、私のことをカレンって呼んでたじゃん」
「待つですよ、少し落ち着くですよ、証拠隠滅のためにフローラを殺すのはなしですよ。あの子がいないと王国の未来が――」
「殺さないよ、フローラは私の友達なんだから。サツキ、ドアの鍵を閉めてくれないかな」
「はい」
ガチャリと、鍵を閉める音が響く。
静まり返る客室。全員の視線が私に集まってくる。
「誤魔化さないのですね」
「フローラは勘が鋭いからね。誤魔化すだけ時間の無駄だもん。ここで見たことは他言無用だからね」
私は天輪と白翼を顕現させると、熾天使カレイアを降臨させた。
腰まで届く銀色の髪。燃え盛るような紅色の瞳。黄金に輝く天輪。薄暗い客室を照らす3対6枚の白翼。
「……」
私を中心に渦巻く銀色の焔を見て、フローラはポカンと口を開く。
「怖いかな」
「滅相もありません。美しいという言葉は貴方様のためにあるのですね。カレイア様とは露知らず数々の御無礼をお許しください」
膝を附き、真剣な声で言ってくるフローラ。
「カレイア様はやめてほしいかな。今までどおりカレンでいいよ」
天輪と白翼を消滅させ、私はフローラに手を差し伸べる。
「しかし」
「私はかしこまられるのが嫌いなんだ。フローラも四聖将のみんなからこんなふうにされたら嫌じゃないかな」
「嫌ですね」
「そういうわけだから、今までどおりカレンでいいからね」
私が笑みを浮かべると――
フローラはやれやれと肩を竦め、苦笑交じりに言ってくるのだった。
「熾天使カレイアに馴れ馴れしい態度を取っているとアンゲリナ教会にバレたら1秒で戦争になりますね」
「フローラとエーテルノが口を滑らせさえしなければ、そんなことにはならないよ」
「ルルセリカとだけは戦いたくないので、死ぬ気で気を付けるです」
――これで。
人間で私の正体を知っているのは、アメル・サツキ・エーテルノ・フローラの4人となった。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
これで、人間界でカレンの正体を知っている者は4人となりました。
エーテルノが戦いたくないという聖女ルルセリカ。きっとめちゃくちゃ強いんでしょうね。
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