『天銀ノ裁秤』
しばらくして、王女様の誕生日パレードが始まった。
今回のパレードは、王女様の乗った馬車がアルファード城から噴水広場を結ぶメインストリートをゆっくりと渡っていく。
王女様を間近で見られるというわけで、国民たちがメインストリートの両端にずらりと並んでいる。
「楽しみだねえ」
待ち遠しいのか、身体をくねらせるアメル。
メインストリートの中間地点くらいで、私たちは王女様を待っている。アルファード城から歓声が聞こえてきたので、王女様が姿を現したのだろう。
「フローレス=アルファード王女殿下は国民からの人気が凄まじいんですよ。孤児院の運営、子育て支援、魔法学院の設立など、王国の未来を担うであろう子供を想った政策を行われていますから」
「へえ~」
サツキに説明され、私は感心してしまう。
ハレスとは大違いである。あのクソデブ変態神は自分さえ良ければ他はどうでもいいって感じだったからね。王女様の爪の垢を煎じて飲ませたいよ。
「しかし、王女様の政策をあまり快く思っていない者もおりまして……貴族や騎士などの富裕層ですね。政策を行うための資金はどこから出ているかってことですよ」
「あ~」
政治ってものは、難しいものだね。
誰かの幸せを想った行為でも、それを快く思わない者がいる。
「王女殿下の馬車が見えてきたぞ!!」
「きゃあああっ!! お誕生日おめでとうございます!! 王女殿下~!!」
そんな会話をしていたとき、王女様を乗せた馬車が見えてきた。国民たちが騒ぎ出し、王都全体が揺れているようである。
「やっぱりフローラだった」
馬車から手を振っていたのは――
純白のドレスに身を包み、頭部には多くの宝石で装飾が施されたティアラを着けている金髪ふわふわショートヘアーの美少女だった。手には白い布手袋をしており、オーガ討伐で出会った時とは雰囲気が違いすぎる。
フローラの隣には護衛が付いており、国民たちの動きに目を光らせている。不審者が飛び出してこようものなら剣で一刀両断だろう。4人いる護衛の中にはコルテリーゼの姿もある。
「きれ~!!」
テンションが上がったのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねるアメル。
「アメル、興奮しすぎて馬車の前に飛び出したらダメだからね」
「そんなことしたら、1秒で処刑されちゃうよね。さすがの私でもそんなことしないよ」
「あはは」
アメルとの会話で――
私が笑っていた時、人混みの中から魔力の上昇を感じた。5人……いや、6人か。少し離れた場所に1人いる。誕生日パレード中に魔力を使うなんて、ろくでもないことを考えているに違いない。
「「「「「王女殿下、お命頂戴」」」」」
黒いローブを被った5人が、人混みから飛び出した。
「何者だ!!」
「王女以外に用は無い!!」
4人の護衛と、5人の黒ローブが戦闘になる。
コルテリーゼには2人付いており、剣をぶつけあう音が響き渡る。戦闘に巻き込まれることを恐れたのか、国民たちが距離を取り始める。
「コルテリーゼ=フォアデル、さすがというべき反応速度だ」
「ほう、ワタシのことを知っているのか」
「有名人だからな。1戦交えたい気持ちはあるが、今はおまえに構っている暇はない。用があるのは王女殿下の命だ。邪魔をしないでもらおう」
「そういうわけにはいかない!! フローラ様はこの命に代えてもお守りする!! 宝剣フレイムステラに誓って!!」
「「ぐお……」」
紅蓮の炎を纏いし剣が、2人の黒ローブを一瞬で切り裂く。
気性が荒いだけの騎士見習いとか思っていたけど、コルテリーゼ強いじゃないか。
「ワタシがいるかぎり、フローラ様には傷1つ付けさせない!!」
「「「うぐ……!!」」」
コルテリーゼが雄叫びを上げた瞬間、黒ローブたちが戦闘を辞めて散っていく。
「完全勝利だ!! ワタシを相手しようなんて100年早い!!」
「「「「うおおおおおおおっ!!!」」」」
天に向かって剣を掲げるコルテリーゼに、歓声を上げる国民たち。
私が天界にいた時、後輩に口を酸っぱくして教えたことがある。敵が最も油断するのは勝利した時だと。
――1つの魔力反応。
北東から。
スナイパーの狙いはフローラだろうが、コルテリーゼは気付いていない。こんな場所で『銀ノ焔』を使ってしまえば正体がバレてしまう。
――しかし、フローラを見殺しにするわけにもいかない。
これを呼び出してしまえば――
100%の確率で天界に私の生存がバレてしまうだろうけど、既にもう魔界と竜界にはバレてしまっているので時間の問題だろうし。
数万年の間、力を合わせて戦場を潜り抜けてきた相棒をクソみたいなハレスの元に置いておくわけにもいかない。
「『天銀ノ裁秤』」
私が指を鳴らした瞬間、王都の空に何の前触れもなく銀色の天秤が出現する。水平になっていた天秤が音を立てて左に傾くと、王都全体に異変が生じた。
「あれ?」
コルテリーゼの掲げていた、宝剣フレイムステラの炎が消滅した。
それだけでなく、王都全体に設置されている魔道具が全て機能を停止してしまう。
「なんだ、あの天秤は……」
「怖い……」
大きさがあるため、国民たちが天秤の存在に気づき始めた。
遠くからは「魔法が使えない」といった悲鳴が聞こえてきたり、王都がパニック状態になってしまっている。
「カレンの仕業ですね?」
「バレた?」
サツキに耳元で囁かれ、私は微笑を浮かべる。
「なんですかあれ?」
「私の相棒『天銀ノ裁秤』だよ。左に傾いたら、全ての魔法が使えなくなっちゃうんだよね」
「はい?」
私の言葉に、サツキが理解できないといった表情を浮かべてくる。
「フローラをスナイパーが狙っていたからさ……魔法を使うわけにもいかないし、とっておきを使っちゃった」
「スナイパーくらい、私に言っていただければ王女殿下に危害を加える前に止めますよ。当たり前のように世界を滅ぼしかねないものを使わないでください。それで、スナイパーはどこにいるんですか」
「時計塔だよ」
「無力化してきますので、正体がバレる前にそのイカレた天秤を消してください」
「はいはーい」
サツキが走り出すと同時――
天秤を消滅させるために、私が指を鳴らした時である。
――フローラと目が合ってしまう。
「「……」」
指を鳴らした直後に天秤が消えてしまえば、私が魔法の発動者であることは一目瞭然。
誤魔化そうと笑顔で手を振る私。誤魔化されませんよと笑顔で手を振るフローラ。宝剣フレイムステラの炎が消えたことで焦りまくるコルテリーゼ。
「カレン、王女様に手を振ってもらえたね!!」
「そうだね……」
満面の笑顔で話しかけてくるアメルに、私は死んだ魚のような目で返事するのだった。
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