『慣れてきた時こそ初心に帰れ』
「なるほど、霊峰ファウゲールで三頭三尾の蛇――カラミティスネークの討伐ですか。Aランク昇級試験の受験資格に繋がるBランク最高難易度依頼ですね」
紺色のファイルを開き、ランが三頭三尾の蛇――カラミティスネークの情報が書かれているページを開く。
カラミティスネーク、災害の象徴と云われる三頭三尾の蛇。大きさはそれほどなく、緑色の鱗を全身に纏い、黒い目をしているのだという。
外見を聞くかぎり、アマテルシアさんの飼っていたヤマちゃんとは関係なさそう。ヤマちゃんは山谷8つ分の大きい身体を持つ八頭八尾の大蛇。目は赤かったし、身体の表面には苔や樹木が生えており、腹部は血で爛れててグロかった。動くだけで地形が変わるし、上位天使すらも殺しかねない毒の息を吐いてくる。万が一、カラミティスネークがヤマちゃんの幼体とかだったら絶滅させなければならない。
「うええ、気持ち悪いねえ。うにょうにょしてそう」
カラミティスネークの写真を見せられ、顔を引きつらせるアメル。
「うにょうにょなんて可愛いものではありません。少しでも油断したら一気に距離を詰められて絞め殺されますよ。牙には猛毒もありますので、討伐に行く時は解毒剤を忘れないようにしてください。王都の薬屋に売っていますので」
「毒があるの!?」
「知らなかったんですか!?」
アメルの発言に、驚きを隠せないラン。
アメルの提案で王都に立ち寄らなければ、カラミティスネークに毒があることを知ることができなかった。
私たちのギルドに治癒魔導士は所属しておらず、解毒剤なしで毒を受けたら死人が出ていたかもしれない。
――舐め腐っていた私たちは情報収集を怠っていたのである。
「冒険者が命を落としやすいのは、冒険に慣れてきたBランクからなんですよ。慣れないうちは慎重に行こうとするので死亡率は少ないですが、慣れてくればどうしても油断が生まれます。今のアメルさんたちみたいに」
「「「……」」」
何も言い返せない。
冒険者に成りたての頃は、依頼に出かける前は魔物図鑑で下調べをしていた。依頼をこなし慣れてくるにつれ、事前に調べることが殆ど無くなっていた。
「落ち込むことはありませんよ。取り返しのつかなくなる前に気づけてよかったじゃないですか」
黙り込む私たちに、ランが優しく微笑んでくる。
「うん、仲間を失う前に気づけてよかった。ランのおかげだよ、ありがとう」
「いえいえ、受付嬢をやっているとそういう現場を見ることがありますので……カレンさんたちにはそんな思いをしてほしくなかったんです」
出会って数分の私たちに、ここまで親切にしてくれる器の広さには感服するよ。
リンもランも他人のことを思いやれる善良な心の持ち主である。私たちができる恩返しは3人で帰ってくることだ。
「ランには1つ借りができたね」
「気にしないでください。この件は、カレンさんたちが無事に帰ってきてくれたらチャラにします。カラミティスネークの討伐、頑張ってくださいね」
ランに見送られ――
冒険者協会から出ようとした時、私は思い出す。
「ラン、1つだけいい?」
「どうされました?」
「王都支部で活動している冒険者に私の友達がいるんだよね。2人とも女の子で、フローラとコルテリーゼっていうんだけど」
「……え?」
私の質問に、ポカンと口を開けるラン。
「カレンが来たっていえば、2人も分かるはずなんだけど……明日の朝までは王都にいるから2人に会うことがあったら私のことを伝えておいてほしいな」
「フローラさんという方は存じ上げませんが……カレンさん、コルテリーゼ様の御友人なのですか……?」
「どういうこと?」
私が首を傾げると、ランだけでなく冒険者たちも会話に入ってくる。
「コルテリーゼといえば、第1王女フローレス=アルファード様の側近じゃねえか!!」
「え?」
衝撃の事実。コルテリーゼが王女様の側近。
短気な性格と実力不足からして到底信じられない話だが、みんなの反応を見るかぎり嘘ではないのだろう。
「彼の発言でようやく思い出しました。コルテリーゼという名前をどこかで聞いたことがあると思っていたら……そういえば、フローレス=アルファード様の側近でしたね。ふう、思い出せてすっきりしました。カレン、王国の上層部と関わりがあるなんて凄いですね」
「コルテリーゼがお偉いさんだってのは知らなかったな」
ここで、私は疑問を抱く。
フローラとフローレスって名前が似ているような。
フローラのことを様付けしたり、アンタ呼ばわりしたサレヴィアに剣を抜いたり、フローラの正体はそういうことなのではないだろうか。
――ぎゅるるる。
冒険者たちが騒ぎ始めた時、私の隣から可愛い音が聞こえてきた。
「お腹空いた」
可愛い音の正体は、アメルの腹の虫だった。
「私もお腹空きましたね。カレン、御友人との再会は後にして昼食にしませんか。王都には美味しい屋台が並んでいるんですよ」
「「賛成!!」」
サツキの提案に、私とアメルは賛同し――
冒険者たちの視線を浴びながら、3人並んで冒険者協会から出るのだった。
◇
王都カレイシア。
アルファード城を中心に広がる都市で、人も店も多く活気に満ち溢れている。
メインストリートには多くの屋台が立ち並んでおり、私たちは昼食代わりに食べ歩きをしていた。
「むぐむぐ、この串焼きすごく美味しいねえ」
「アメル、こっちのタコスとかいうのも美味しいよ。ピリ辛で癖になる味」
「私の串焼きひとくちあげるから、タコスひとくち食べさせてよ」
「私も食べたいです。ホットサンドひとくちあげますので」
食いしん坊の集まりである私たちのギルド。普通のギルドなら観光名所などを回ったりするのだろうが、私たちの最優先事項は食事である。
「からっ、でもおいし~」
「ピリッと辛いのは、南大陸の調味料を使っているからですね。生地に挟んである挽肉も贅沢にブランド牛を使っています。さすがは王都というべきですか」
口元に付いたソースをぺろりと舐めるアメルと、真剣な表情でタコスを分析するサツキ。
「ほんと、サツキは物知りだね」
「メイド学校を首席で卒業していますからね。料理の知識は最優先で叩きこまれました」
「「いよっ、我らがメイド長」」
「えっへん」
私とアメルにおだてられ、サツキはドヤ顔を浮かべるのだった。
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