『指切りげんまん』
翌日の朝。
港町アクリナの食堂で、私・アメル・サツキの3人は店の看板料理であるトマリスープを食べていた。
「なにこれ、すっごく美味しい」
「初めて食べましたが、なんとも癖になる味ですね」
「むふふ、そうでしょー?」
私とサツキの反応を見て、嬉しそうにするアメル。
トマリスープ。
北の大陸で愛されているスープ料理。ひとくちサイズに刻んだ肉と野菜をペースト状にしたトマリスの実で煮込んであり、スープとパンを交互に食べてワインで流し込めば無限ループの完成だ。
アメルによれば、ティアレも相当トマリスープを気に入っていたようで、5杯もおかわりしたらしい。
「最近の女の子は、ホントよく食べるなぁ」
私のおかわりが3杯目に突入した時、店員から話しかけられた。
「昨日から何も食べてないからさ、お腹ペコペコで死にそうなんだよね」
「そうだったのか、じゃあ、腹いっぱい食ってくれよ。パン1枚おまけしとくから」
「神様より神様してる!!」
「おう、腹ペコ少女には優しくするのが俺の人生なのさ。俺は神を超えていく。ぐずぐずしてると置いていくぜ神ィッフゥウウ!!」
サツキと別れた後――
5分くらいでお医者さんを誘拐してきたサツキが帰ってきて、私とアメルは治癒魔法を施してもらった。
お医者さん曰く――私は「なんで生きてんの、死ぬだろこれ状態」とのことで、大急ぎで治療が始まった。アメルは軽い脳震盪だったらしく、命に別状は無かった。傷は治っても肉体が疲れ切っており、たくさん栄養を取って体力を回復させなければならない。
天使である私は、大気中の魔粒子を生命力に変換して体力回復することができる。しかし、人間界に来てから気づく。魔粒子を生命力に変換するよりも食事で栄養補給したほうが、回復速度が上がることに。そんなことを知ってしまえば、ごはんごはんとにかくごはん。お腹いっぱいになるまでごはんを食べるしかないでしょう。
「ごちそうさま」
トマリスープ10杯目を平らげたところで、私は手を合わせて「ごちそうさま」をする。
お腹いっぱい。栄養ばっちり。
「カレン、すごい食欲でしたね」
「サツキちゃんも相当だけどね。4杯も食べちゃってるし」
「魔剣の生成には魔力とエネルギーどちらも使いますからね。スプーンが止まりませんでした。アメルは1杯しか食べなかったんですね」
「レイン・ドゥクスアを倒したあと、ティアレちゃんと食べちゃったからね」
上機嫌そうに、ポンポンとお腹を叩くアメル。
レイン・ドゥクスアという名前を聞いて、私は港町アクリナに来た目的を思い出す。
「そうそう、いろんなことがありすぎて私すっかり忘れていたよ。港町に来たらアメルを説教しなきゃいけないんだった」
「えっ」
私の発言に、間抜けな声を上げるアメル。
「私も忘れていました。アメルそこに正座しなさい」
「サツキちゃんまで!?」
「つべこべ言わない。夕飯のおかずを減らしますよ」
「うひー」
夕飯を人質に取られ、おとなしく床に正座するアメル。
「アメル、貴方は大罪を犯しました」
「大罪って、思い当たる節がないんだけど……あっ、やばい」
「思い出したようですね。貴方はリンを騙し、私を騙し、1人でレイン・ドゥクスアの討伐に向かいました」
「そして、2回死にかけたんだよね。ティアレがいなかったら死んでたんだよ」
「あうう……」
サツキと私に叱られ、しょんぼりとするアメル。
「どうして、そんなことをしたの?」
「……」
私の質問に、無言で俯くアメル。
「アメル、私たちに言いたいことがあるのなら遠慮なく言ってよ。家族なんだから。もしかして、私たち何かしちゃったかな。不愉快にさせたなら謝るよ」
「そんなことない!! カレンとサツキちゃんは私に優しくしてくれるし!! 悪いのは私だよ!!」
「それなら……」
そう言いかけた時、アメルが唇を噛み締めていることに気づく。
「私は、カレンとサツキの隣に立ちたかったんだ」
「「え?」」
アメルの発言に、私とサツキの声が重なる。
「冒険者のお姉さんに言われて気づいたんだ。私は他人任せの卑怯者だってことにね」
「いや、そんなこと……」
「そんなことあるんだよ。依頼で私がみんなの役に立ったことあるかな。いつもの依頼では2人の足を引っ張って、港町アクリナでもみんなに助けてもらって、1人じゃあ何もできないんだ。そんなの嫌だよ」
なるほど、そういうことだったのか。なんとなくだけど、アメルが心の内に溜め込んでいたことが理解できた気がする。
「アメルは1つ誤解をしています」
アメルの唇から血が垂れた時、サツキが口を開く。
「えっ」
「アメルは自分が他人任せの卑怯者。1人では何もできない。みんなの役に立ったことがあるかと言いましたね」
「うん」
「アメル、貴方は私たちの命を救ってくれましたよね。貴方がいなかったら、私とカレンはティアレに殺されていましたよ」
「あれ、私知らない。もしかして、もう1人のわたしと変わっていた時?」
「はい、ティアレに殺されそうになった時、アメルは私たちの命を救ったんですよ。雷神ネプシーを召喚して」
「ええっ!?」
サツキの発言に、私は驚愕の声を上げてしまう。
人間のアメルが雷神ネプシーを召喚したなんて信じられない。ムンちゃんならまだギリギリ受け入れられるけど、ネプシーは私と同等もしくはそれ以上の最上位存在だ。古代の人間が神を召喚した事例はあるが、大量の供物と数千人単位の生贄を差し出してなんとか数十秒の召喚に成功しただけである。
「どんな代償を払った!?」
「代償って、私はいつも通りに召喚しただけだよ。ムンちゃんと同じようにね」
外傷は無い。
魔力と精神にも異常をきたしている様子はない。
見た感じでは大丈夫そうだが、神の召喚がノーリスクなわけがない。絶対に何かを犠牲にしている。
「アメル、私と約束して。今後何があってもネプシーを召喚しないで」
「大丈夫だって」
「今度ネプシーを召喚したら、私はアメルの親友をやめる」
私が真剣な表情で告げると、アメルはびくっと身体を震わせた。
「カレン、何もそこまで――」
「サツキ、神の召喚はノーリスクでやれるわけがないんだ。アメル自身は知らなくても、絶対に何かを犠牲にしている。外傷が無いなら寿命か記憶か。1回か2回なら変化に気づかないかもしれないけどね」
「……」
言葉を失うサツキ。
「私はもう大切な人を失いたくないんだ。お願いだよ、アメル」
私の頬を伝う一筋の涙に気付いたのか――
アメルは自分の頬をパシンと叩き、真剣な眼差しで見つめてきた。
「……わかった。私はもうネプシーちゃんを召喚しない。寿命が減ったらカレンたちと冒険できなくなっちゃうし、記憶を取られたら楽しかった思い出とかも忘れちゃうから。そして、なによりも親友の涙を見たくないから」
「うん、約束だからね」
小指を絡め合い、私とアメルは誓いの指切りげんまんをするのだった。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!!
面白い・続きが気になると思っていただけましたら、こちら↓↓↓の広告下にあります「☆☆☆☆☆」欄にて作品への応援を頂けますと、今後の励みとなります。
これからもよろしくお願いします!!




